製品のライフサイクル全体を通じた環境負荷の低減は、いまや設計・開発における重要な使命の一つです。
「サステナビリティ(持続可能性)」が企業の価値をも左右する現代において、材料が持つリサイクル性能は、製品選定における決定的な評価軸となりつつあります。
その中で、アルミニウムは他の多くの工業材料を寄せ付けない、群を抜いた「リサイクル性」を誇ります。
この「何度でも蘇る金属」としての驚くべき能力、高品質な「再生塊」への理解、そして「グリーンアルミニウム」という未来志向の取り組みが、なぜこれからのものづくり、そして私たちの未来にとってこれほどまでに重要な意味を持つのか。
そして、この価値は、私たち一人ひとりの小さな意識と行動によって、さらに大きな力となるのです。
その本質的な価値を、具体的な根拠と共にご理解いただき、未来への選択について一緒に考えてみませんか。
1. なぜアルミニウムのリサイクル性は卓越しているのか?
アルミニウムのリサイクル性が卓越している最大の理由は、そのエネルギー効率の高さと品質維持能力にあります。
驚異的なエネルギー削減効果
新しい地金(バージン材)をボーキサイトから精錬する場合と比較して、再生地金(リサイクルされたアルミニウム)の製造に必要なエネルギーはわずか3~5%程度です。
これは、実に95%以上のエネルギー削減を意味します。
この数値は、国際アルミニウム協会(International Aluminium Institute)や日本アルミニウム協会などの業界団体によっても広く公表されており、主にボーキサイトの採掘、輸送、そして電気分解という高エネルギー消費工程を回避できるために達成されます。
品質の維持と半永久的なリサイクル
アルミニウムは、理論上、品質をほとんど劣化させることなく半永久的にリサイクルが可能です。
適切な合金調整を行うことで、再生アルミニウムはバージン材と同等の品質を維持し、多様な製品に生まれ変わることができます。
これは、アルミニウムの金属学的特性として、再溶解・再凝固の過程で原子構造が大きく損なわれないためであり、不純物の除去や成分調整技術の高度化も高品質な再生地金の製造を支えています。
2. アルミニウムリサイクルがもたらす多大な恩恵
この優れたリサイクル性は、環境、経済、そして企業価値の向上という多岐にわたる恩恵をもたらし、巡り巡って私たちの豊かな暮らしと未来を守ることに繋がっています。
地球資源の保全とCO₂排出量の大幅な削減
環境面では、有限なボーキサイト資源の新規採掘を大幅に減らし、持続可能な資源利用を促進します。これは、未来世代への責任を果たす上で不可欠です。
また、エネルギー消費を95%以上削減できる結果、CO₂排出量も同様に大幅に削減され、地球温暖化防止に直接的に貢献します。
例えば、アルミニウム缶を分別・リサイクルするという私たちの小さな行動も、CO₂削減に繋がっているのです。
試算によれば、1トンのアルミニウムをリサイクルすることで、バージン材から製造する場合と比較して約9トンのCO₂排出量を削減できるとされています(数値は条件により変動します)。
経済的メリットと安定供給の実現
コスト面では、再生地金が市場状況により新地金よりも安価となる場合があり、製品のコスト競争力向上に繋がる可能性があります。
これは、環境配慮型製品がより手頃な価格で提供される可能性も意味します。
加えて、私たちが使い終えた製品は「都市鉱山」とも言える貴重な資源であり、国内でアルミニウムが循環することで海外からの資源輸入への依存度を低減し、資源の安定供給にも寄与します。
企業価値の向上(SDGs/ESG経営への貢献)
リサイクル性の高いアルミニウムを積極的に採用する企業は、その環境配慮姿勢を具体的に示すことになり、SDGs(特に目標12「つくる責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」)への貢献にも繋がります。
このような取り組みは、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営を重視する投資家や環境意識の高い消費者からの評価、ブランドイメージ向上に直結するでしょう。
私たち消費者が環境に配慮した製品や企業を選ぶことも、地球の未来を考え行動する企業を応援する力強いメッセージとなります。
3. アルミニウムリサイクルの具体的な手順
アルミニウムが効率的にリサイクルされ、高品質な再生塊(さいせいかい、リサイクルインゴットとも呼ばれます)として生まれ変わる背景には、確立された手順が存在します。
私たちの分別から、そのサイクルは始まります。
- 収集・選別:私たち消費者が分別排出した使用済みアルミニウム製品が回収され、他の素材と効率的に選別されます。
- 圧縮・梱包・前処理:選別されたスクラップは輸送効率を高めるために圧縮され、必要に応じて塗料除去などの前処理が施されます。
- 溶解:溶解炉でアルミニウムスクラップを高温で溶かします。
- 成分調整・精製:溶けたアルミニウム(溶湯)から不純物を取り除きます。この際、例えばフラックス処理(※溶融金属中の酸化物やガスなどの不純物を除去し、清浄度を高めるための処理)などが行われ、ターゲットとする合金スペックに基づき厳密な成分調整がなされます。
- 鋳造:精製・調整された溶湯は、押出加工に適した円柱状の「ビレット」や、鋳物製品に使われる「インゴット」(特定の形状に固めたアルミ塊)などの再生塊として鋳造されます。こうして再生された塊は、厳格な品質管理を経て出荷され、再び様々なアルミニウム製品の原料として、次の製品サイクルへと供給されるのです。
4. 再生塊(再生アルミニウム地金)の品質と信頼性
「リサイクルされたもの」と聞くと、品質は大丈夫?と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、適切に処理され、厳格な品質管理のもとで製造された再生塊は、新地金(バージン材)と比較して品質に遜色はありません。
リサイクルプロセスを通じて不純物が適切に除去され、合金成分が精密に調整されるため、特定の用途においてはバージン材と同等、あるいはそれ以上の均質性や特性を持つことさえあります。
私たち加藤軽金属工業は、信頼できる供給元から高品質な再生塊を選定し、長年培ってきた押出技術と組み合わせることで、お客様の要求仕様を満たす高精度・高機能なアルミニウム押出製品を安定的に供給しています。
JIS(日本産業規格)の基準に基づき、押出に適した高品質なビレットの使用を徹底しており、お客様の製品に求められる品質に応じて最適な材料を選択しています。
その結果、実績として弊社全体の使用量では、新塊ビレットがおよそ8割、再生塊ビレットがおよそ2割となっております。
再生材だからといって品質に妥協することは一切ありません。
むしろ、地球環境への負荷を減らしながら、高い品質を維持できることは、大きな誇りです。

5. 高まる「グリーンアルミニウム」への理解と期待
近年、地球温暖化対策の加速に伴い、「グリーンアルミニウム」への関心と需要が世界的に高まっています。
これは、より環境負荷の少ないアルミニウムを選ぼうという、社会全体の意識の高まりの表れです。
グリーンアルミニウムとは、製造過程におけるCO₂排出量を大幅に削減したアルミニウムの総称です。これには主に二つのアプローチがあります。
リサイクルアルミニウム(再生塊)の活用
本稿で詳述している通り、再生塊の製造に必要なエネルギーがバージン材の3~5%であり、CO₂排出量を劇的に削減できるため、グリーンアルミニウムの最も代表的な形態です。
実際、再生アルミニウム製造時のCO₂排出量は、約0.3~0.5 kg CO₂e/kg Alと非常に低い値を示します。
私たちが分別したアルミ製品が、建築資材、飲料缶、自動車部品など、さまざまな用途で活用されるこの環境負荷が極めて低いアルミニウムに生まれ変わります。
低炭素電源によるバージンアルミニウムの製造
水力、太陽光、風力といった再生可能エネルギーを利用して精錬されたバージンアルミニウムも、従来の化石燃料由来のものに比べてCO₂排出量が少ないため、グリーンアルミニウムの一翼を担います。
世界の主要なアルミニウムメーカーは、それぞれの製品ブランドにおいてCO₂排出量を最大4.0 kg CO₂e/kg Al以下に抑える取り組みを行っており、再生可能エネルギーの活用や製造プロセスの最適化を通じて、低炭素アルミニウムの生産を推進しています。以下にその一部をご紹介します。
企業名 | 製品ブランド | CO₂排出量基準(kg CO₂e/kg Al) | 主な特徴・備考 | URL |
---|---|---|---|---|
Alcoa | EcoLum | 最大4.0 | スコープ1および2。ISO 14025およびISO 14044に基づく第三者認証、バリューチェーン全体を考慮。 | https://www.alcoa.com/global/en/what-we-do/aluminum |
Century Aluminum | Natur-Al | 最大4.0 | スコープ1〜3。アイスランドのNorðurál工場で100%再生可能エネルギーを使用、ASI認証取得。 | https://nordural.is/en/natural/ |
Hydro | REDUXA | 最大4.0 | スコープ1〜3。水力、風力、太陽光などの再生可能エネルギーを使用。 | https://www.hydro.com/us/global/aluminum/products/low-carbon-and-recycled-aluminum/low-carbon-aluminum/hydro-reduxa/ |
RUSAL | ALLOW | 最大4.0 | スコープ1および2。水力発電を活用。 | https://www.rusal.ru/en/clients/allow/ |
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(上記表のCO₂排出量基準の対象範囲(スコープ)は各社規定によります)
エネルギー消費量そのものを95%以上削減できるリサイクルアルミニウムは、これらの低炭素電源によるバージンアルミニウムと比較しても、CO₂排出量削減において極めて大きな効果を発揮します。
ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点からも、アルミニウムのリサイクルは環境負荷低減の最も有効な手段の一つです。
多くの企業がカーボンニュートラル目標を掲げる中、サプライチェーン全体でのCO₂排出量削減が求められており、グリーンアルミニウム、特にリサイクル材を積極的に採用することは、これらの目標達成に不可欠です。
これは、企業の持続可能性と競争力を高める上で重要な戦略となっており、国際的な認証制度(例:Aluminium Stewardship Initiative (ASI)認証)などを通じてサプライチェーンの透明性と信頼性を確保する動きも活発化しています。
企業がサステナビリティ戦略を策定する際には、これらの情報を参考にし、用途や目的に応じて適切な低炭素アルミニウム素材を選択・活用することが求められます。
6. アルミニウムを選ぶという選択
私たちの身の回りにある多くのアルミニウム製品、例えば窓枠、自動車部品、飲料缶、調理器具などは、この優れたリサイクル性によって支えられています。
そして今、その価値は「再生塊」の品質への信頼と、「グリーンアルミニウム」という未来志向の取り組みによって、さらに高まっています。
アルミニウムを選ぶということは、単にその軽さや強さ、美しさといった機能性を追求するだけではありません。
それは、地球環境への配慮と未来世代への責任を果たすという、より大きな視点での設計思想、そして私たちの生活における賢い選択を体現することに他なりません。
私たち一人ひとりができることも考えてみましょう。
- アルミニウム製品を大切に、長く使う
- 使い終わったアルミニウム製品をきちんと分別し、リサイクルに出す
- 環境に配慮して作られたアルミニウム製品を積極的に選ぶ
これらの行動が、持続可能な社会の実現に繋がります。
「何度でも蘇る金属」、アルミニウム。その無限の可能性を活かすことは、持続可能な社会を構築し、地球と調和した豊かな未来を創造するための、賢明かつ不可欠な選択と言えるでしょう。
貴社の製品づくりにおいても、そして私たち一人ひとりの日々の選択においても、この優れたリサイクル性と将来性を持つアルミニウムをご検討いただくことは、大きな価値を生み出すものと確信しております。
アルミニウムのリサイクル性を活かすという、未来への賢明な一歩を共に踏み出しましょう。
小さな行動が、未来を変える大きな力になるために