その部品、なぜ曲がった?
「引張強さは十分なはずなのに、使っているうちに曲がってきた」
「計算上は問題ないのに、試作品が変形した」
こういった経験はありませんか。
原因の多くは、「強度」の意味を取り違えていることにあります。
アルミニウムの強度を語るとき、いくつかの異なる指標が登場します。
- 引張強さ
- 耐力
- 伸び
- ヤング率(縦弾性係数)
これらは、それぞれ異なる「強さ」を表しています。
「引張強さが高いから大丈夫」と思っていたら、実は見るべきは「耐力」だった。
「耐力は満たしているのに曲がる」と思ったら、問題は「ヤング率」だった。
この記事では、アルミニウムの強度を正しく理解するための基礎を解説します。
引張強さ——「壊れる限界」の数値
引張強さ(Tensile Strength)は、材料を引っ張ったときに、破断するまでに耐えられる最大の応力です。
単位は N/mm²(ニュートン毎平方ミリメートル)、または MPa(メガパスカル)。
| 材料 | 引張強さ(N/mm²) |
|---|---|
| A6063-T5(アルミ) | 185以上 |
| A6061-T6(アルミ) | 310以上 |
| SS400(一般構造用鋼) | 400〜510 |
| SUS304(ステンレス) | 520以上 |
アルミニウムの引張強さは、鉄やステンレスより低い。
これは事実です。
しかし、引張強さは「壊れる限界」の数値であり、設計上の許容応力としてそのまま使うことはありません。
なぜなら、引張強さに達するずっと前に、材料は元に戻らない変形を始めているからです。
耐力——設計者が本当に見るべき数値
耐力(Yield Strength、0.2%耐力)は、材料に永久変形が生じ始める応力です。
「永久変形」とは、力を取り除いても元に戻らない変形のこと。
| 材料 | 耐力(N/mm²) |
|---|---|
| A6063-T5(アルミ) | 145以上 |
| A6063-T6(アルミ) | 215以上 |
| A6061-T6(アルミ) | 275以上 |
| SS400(一般構造用鋼) | 245以上 |
A6061-T6の耐力は、一般構造用鋼(SS400)に迫る数値です。
設計において重要なのは、引張強さではなく耐力。
製品が使用中に受ける応力は、原則としてこの耐力を超えないように設計します。
耐力を超えると、部品は変形し、元に戻らない。
たとえ破断していなくても、製品としての機能は失われます。
■ コラム:プロレスラーの「強さ」で考える
強度の種類を、プロレスラーの強さに例えてみましょう。
引張強さ = パワー
どれだけ重いものを持ち上げられるか。
限界を超えたら、筋肉が断裂する。 これが「破断」。耐力 = 打たれ強さ
どこまでダメージを受けても、元の姿勢に戻れるか。
これを超えると、体勢が崩れたまま戻らない。 これが「永久変形」。伸び = 粘り
最後まで諦めずに戦い続ける力。
伸びがないレスラーは、一発で倒れる(脆性破壊)。
粘りがあれば、ダメージを受けながらも持ちこたえる。ヤング率 = 体幹の硬さ 押されたときに、どれだけブレないか。
体幹が弱いと、同じ力でも大きくよろける(たわむ)。
「強い」と一言で言っても、何が強いのかは場面による。
パワーだけあっても、打たれ弱ければ試合に勝てない。
体幹がしっかりしていても、粘りがなければ逆転できない。アルミニウムも同じ。
用途に応じて、どの「強さ」が必要かを見極める。
それが、強度設計の出発点です。
伸び——「粘り強さ」の指標
伸び(Elongation)は、材料が破断するまでにどれだけ伸びるかを示す数値です。
単位はパーセント(%)
| 材料 | 伸び(%) |
|---|---|
| A6063-T5 | 8以上 |
| A6063-T6 | 8以上 |
| A6061-T6 | 8以上 |
| A5052-H34 | 4以上 |
伸びが大きい材料は、粘り強い(靭性がある)と言えます。
伸びが大きいと何が良いのか
- 衝撃を吸収する
- 急な力がかかっても、すぐには破断しない
- 変形しながらエネルギーを吸収する
- 加工しやすい
- 曲げ加工、深絞り加工がしやすい
- 割れにくい
- 安全側に壊れる
- 破断の前に変形という「予兆」がある
- 突然パキッと割れる(脆性破壊)を避けられる
伸びが小さいとどうなるか
高強度のアルミ合金は、一般的に伸びが小さくなる傾向があります。
強度を追求するあまり、伸びが極端に低い材料を選ぶと、 予期せぬ衝撃で脆性的に破壊するリスクがあります。
強度と伸びはトレードオフの関係。
用途に応じたバランスが重要です。
ヤング率——「たわみやすさ」の指標
ヤング率(縦弾性係数)は、材料の「剛性」を示す数値です。
力をかけたときに、どれだけ変形しにくいか。
| 材料 | ヤング率(GPa) |
|---|---|
| アルミニウム | 約70 |
| 鉄 | 約210 |
| 銅 | 約130 |
| チタン | 約106 |
アルミニウムのヤング率は、鉄の約1/3。
これは、同じ形状・同じ力をかけた場合、アルミニウムは鉄の約3倍たわむということです。
「軽いから薄くできる」は危険
比重の記事でも触れましたが、アルミニウムは鉄の約1/3の重さ。
しかし、ヤング率も約1/3。
「軽いから、同じ形状で鉄をアルミに置き換えれば軽量化できる」と単純に考えると、たわみの問題が発生します。
剛性が必要な部品では、形状の工夫が必須。
- 断面積を大きくする
- 中空構造にする
- リブ(補強の骨)を入れる
押出形材は、これらの工夫を一体成形できる製法です。
■ コラム:飛行機の窓は、なぜ丸いのか
1950年代、世界初のジェット旅客機「デ・ハビランド・コメット」が相次いで墜落しました。
原因は、窓の形でした。
当時のコメット号の窓は、四角形。 そして、角には応力が集中する。
飛行機は、上空で与圧と減圧を繰り返します。 その度に、機体には力がかかる。
一回一回の力は、材料の耐力以下。 しかし、何千回、何万回と繰り返されるうちに、 窓の角から亀裂が入り、機体が空中分解した。
これが疲労破壊です。
この事故以降、飛行機の窓は丸くなりました。 角をなくすことで、応力集中を避ける設計に変わったのです。
強度の問題は、命に関わる。
「引張強さを満たしているから大丈夫」ではない。 繰り返しの力、応力集中、形状の影響—— これらを総合的に考えることが、設計者の責任です。
疲労強度については、別記事「アルミニウムの疲労強度と設計上の注意点」で詳しく解説しています。
合金と質別で強度は大きく変わる
同じ「アルミニウム」でも、合金の種類と熱処理(質別)によって強度は大きく異なります。
代表的な押出用合金の強度比較
| 合金・質別 | 引張強さ(N/mm²) | 耐力(N/mm²) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| A6063-T5 | 185以上 | 145以上 | 押出性◎、汎用性高い |
| A6063-T6 | 240以上 | 215以上 | T5より高強度 |
| A6005C-T5 | 270以上 | 225以上 | 構造用、車両・機械フレーム |
| A6061-T6 | 310以上 | 275以上 | 高強度、船舶・構造物 |
T5とT6の違い:
- T5:押出後、そのまま人工時効硬化
- T6:溶体化処理後、人工時効硬化(より高強度)
用途に応じた合金・質別の選定が、強度設計の出発点になります。
強度に影響する3つの要因
アルミ押出材の強度は、材料だけで決まるわけではありません。
1. 断面形状
同じ材料でも、断面形状によって実際の強度性能は大きく変わります。
肉厚の急激な変化
- 厚い部分と薄い部分が隣接すると、応力が集中しやすい
- 応力集中は破壊の起点になる
中空構造・リブ構造
- 材料を効率的に配置し、軽量化と剛性を両立
- 押出形材の強み
角部のR(丸み)
- ピン角は応力集中の原因
- 適切なRで応力を分散
押出方向と負荷方向
- 押出材は長手方向に金属組織が揃う(異方性)
- 主たる負荷方向を考慮した設計が重要
押出形材は、中空構造やリブを一体成形できるため、形状による強度最適化に向いています。
2. 熱処理
6000系などの熱処理型合金は、熱処理の条件で強度が決まります。
- 溶体化温度と時間
- 冷却速度
- 時効温度と時間
これらが適切でないと、JIS規格の強度が出ない場合もあります。
3. 溶接の影響
アルミニウムを溶接すると、熱影響部(HAZ)の強度が低下します。
特にT6処理材は、溶接後に強度が大幅に落ちることがある。
溶接が必要な部品では、この強度低下を考慮した設計が必要です。
疲労強度について
繰り返し荷重を受ける部品では、疲労強度(疲れ強さ)が重要になります。
コラムで紹介したコメット号の事故のように、一回一回の力が耐力以下でも、繰り返されるうちに破壊に至ることがある。
疲労強度については、別記事「アルミニウムの疲労強度と設計上の注意点」で詳しく解説しています。
硬さについて
硬さ(Hardness)は、表面の傷つきにくさを示す指標です。
一般的に、強度が高いアルミ合金は硬さも高くなる傾向があります。
ただし、硬さと強度は必ずしも比例しません。
硬さと表面の傷つきやすさについては、別記事「アルミニウムの傷つきやすさと対策」で詳しく解説しています。
まとめ
- 引張強さ:破断する限界の応力。設計の許容値には使わない
- 耐力:永久変形が始まる応力。設計上、この値を超えないようにする
- 伸び:粘り強さ。衝撃吸収性、加工性に関係
- ヤング率:剛性。アルミは鉄の1/3で、同じ形状なら3倍たわむ
- 合金・質別で強度は大きく変わる:A6063-T5からA6061-T6まで幅広い
- 断面形状、熱処理、溶接も強度に影響
強度を正しく理解する
アルミニウムの強度は、単純に「強い」「弱い」で語れるものではありません。
引張強さ、耐力、伸び、ヤング率——それぞれが異なる「強さ」を示している。
そして、合金選定、断面設計、熱処理、溶接といった要因が、最終的な強度性能を左右する。
「耐力の範囲内で使う」「ヤング率を考慮して形状を工夫する」
この2点を押さえることが、アルミニウムの強度を活かした設計の基本です。
参考文献・データ出典
- JIS H4100:2015 アルミニウム及びアルミニウム合金の押出形材
- 一般社団法人 日本アルミニウム協会「アルミニウム材料の諸特性データベース」https://www.aluminum.or.jp/materialdb/

