
アルミニウムという素材には、数字だけでは語りきれない「軽さ」と「強さ」があります。
持ち上げてみれば、その軽さに驚く。
使ってみれば、その加工性に助けられる。
気づけば、身の回りのあちこちに、当たり前のように使われている──そんな存在です。
このページでは、アルミニウムが持つ15の代表的な特性を、製造現場の視点も交えて紹介しています。
特性ごとの詳細ページにもリンクしていますので、用途に応じた素材選定の一助となれば幸いです。
「なぜアルミニウムがここまで広く使われているのか?」
その答えのヒントを、このページで見つけていただけるかもしれません。
アルミニウムが選ばれる理由
まずは、アルミニウムが持つ多彩な特性を、他の代表的な金属と比べてみましょう。
この比較表では、アルミニウムと鉄・銅の代表的な性質を並べています。
物性の違いはもちろん、加工のしやすさや再生性など、用途選定のヒントになる視点もまとめました。
【クリックして展開】アルミニウム・鉄・銅の特性比較表
特性 | アルミニウム | 鉄 | 銅 | 補足説明 |
---|---|---|---|---|
比重 | 約2.7 | 約7.8 | 約8.9 | ※数値は純粋な金属を基準とした代表値。合金により変動します。 |
強度向上 | 可能 | 可能 | 可能 | 合金化・熱処理により強度調整が可能。用途に応じた材料設計が可能です。 |
低温耐性 | 優れている | 劣る | 劣る | 極低温下でも靭性を保ち、宇宙・低温設備で活躍します。 |
磁気特性 | 非磁性 | 磁性 | 非磁性 | 非磁性のため電子・医療機器に好適。 |
電気伝導率 | 約60% IACS | 約17% | 100% IACS | ※純アルミニウム(1000番台)を基準とした参考値。合金によって低下します。 |
熱伝導率 | 約237 W/m·K | 約80 W/m·K | 約398 W/m·K | ※純アルミニウムの代表値。合金化により大きく変動します。 |
再生可能性 | 高い | 低い | 高い | リサイクルしやすく、環境負荷低減に寄与。 |
表面処理可能 | 可能 | 可能 | 可能 | アルマイトや塗装で耐候性・美観が向上。 |
成形加工性 | 優れている | 劣る | 優れている | 押出・曲げ・鍛造などの加工に適応。 |
接合可能性 | 多様 | 限定 | 多様 | 溶接・リベット・接着など多様な手段に対応。 |
電磁波シールド効果 | 高い | 低い | 高い | EMI対策として電子筐体などに活用。 |
真空特性 | 優れている | 限定 | 優れている | 真空中でのガス放出が少なく、精密装置に利用。 |
毒性 | 無害 | 有害 | 無害 | 一般的な条件下では人体に無害。粉塵は管理が必要。 |
重要な用途 | 輸送、電子、缶 | 建築、自動車、船舶 | 電子、電気通信 | 軽量化・耐食性を活かした分野に集中。 |
主な産業分野 | 航空宇宙、建築、輸送 | 建築、自動車、造船 | 電子、通信 | 用途ごとの産業別分布を示しています。 |
アルミニウムの15の特性とその魅力
1. 低密度で軽い
アルミニウムの最大の魅力のひとつは、比重が「約2.7」と極めて軽量である点です。これは鉄(約7.8)や銅(約8.9)と比べて約1/3にすぎません。
軽さは単なる物理的特徴にとどまらず、製品全体の燃費改善、運搬効率、構造負担の低減といった形でコスト・性能に直結します。とくに航空機・自動車・コンテナなどの輸送分野では、軽さが“性能そのもの”と見なされる場面も少なくありません。
この比重の値は、主に1000番台の純アルミニウムを基準とした代表値です。合金化によって若干の差異が出る場合があります。
2. 強度向上(合金化による)
アルミニウム単体(純アルミ)は引張強度が高くありませんが、合金化や熱処理を加えることで、その機械的性質は大きく向上します。たとえば、航空機に用いられる高剛性合金や、自動車部品に使用される6000系合金など、用途に応じた選定が可能です。
設計上は、「軽くて柔らかい」ではなく、「軽くて設計強度を満たせる」素材へと進化するのがアルミ合金の特長。合金ごとの強度・溶接性・耐食性のバランスを見極めることが、材料選定のカギとなります。

弊社が使用しているアルミニウム合金
材料 | 特性 | 用途 |
---|---|---|
1070 | 純度が高く軽量 | 家庭用器具、電子部品、食品包装、装飾品 |
3003 | 強度と溶接性に優れる | 自動車パーツ、キッチンウェア、建材、パイプ |
6005C | 中程度の強度と耐食性 | 建築、自動車部品、鉄道車両、家具、窓枠 |
6063 | 強度は低めだが加工性抜群 | フレーム、ガードレール、家具、窓枠 |
アルミニウム押出の魅力
アルミニウム押出は、さまざまなアルミニウム合金を活用する優れた方法です。
その中でも「1070, 3003, 6005C, 6063」は特に注目すべき素材です。
これらの合金は異なる特性を持ち、多岐にわたる用途に利用されています。
- 1070:純度が高く、軽量である1070アルミニウムは、家庭用器具から電子部品、食品包装、装飾品に至るまで、さまざまな分野で利用されています。その高い純度から優れた電気伝導性を持ち、電子機器での使用に適しています。
- 3003:強度と溶接性に優れる3003アルミニウムは、自動車パーツ、キッチンウェア、建材、パイプなどの用途で幅広く利用されています。その優れた耐食性と溶接性から、多くの自動車メーカーによって部品に採用されています。
- 6005C:中程度の強度と耐食性を兼ね備えた6005Cアルミニウムは、建築、自動車部品、鉄道車両、家具、窓枠など、耐久性を求められる多くの場面で適しています。その優れた加工性と耐久性から、多くの建設プロジェクトで使用されています。
- 6063:強度は低めですが、加工性に優れる6063アルミニウムは、フレーム、ガードレール、家具、窓枠など、複雑な形状を必要とする製品の製造に最適です。その優れた加工性から、多くのデザインに対応できる柔軟性を持っています。
3. 耐食性
アルミニウムは空気中で酸化皮膜を形成し、腐食を防ぎます。
この特性から、建築、自動車、船舶、海洋開発分野で多く使用が見られます。
アルミニウム合金と耐食性
アルミニウム合金の選択は、耐食性に大きな影響を与えます。以下は弊社が使用する合金ごとの耐食性の比較です。
- 1070アルミニウムは純度が高く、耐食性が低い特性を持っています。この合金は主に内部用途や非常に乾燥した環境向けであり、湿度や腐食物質にさらされる場所では適していません。
- 3003アルミニウムは耐食性に優れており、湿度の高い環境や腐食物質の影響を受けにくいため、自動車部品、調理器具などの耐久性が求められるシーンに向いています。
- 6005Cアルミニウムは中程度の強度と優れた耐食性を併せ持っています。建築や鉄道車両など、屋外での使用に適しており、長期間にわたり外部要因に対抗する能力があります。
- 6063アルミニウムは中程度の耐食性を持ち、屋内用途向けです。窓枠、家具など、直接的な外部の影響を受けない製品に使用されます。
アルミニウム合金の選択は、環境条件と耐久性の要件に合わせて行うべきです。耐食性が重要な要素である場合、合金の選択は製品の寿命と性能に大きな影響を与えます。
4. 非磁性体
アルミニウムは非磁性体であり、磁場に対して影響を受けません。
この特性は、多くの電子医療機器やメカトロニクス機器の製造において不可欠です。
例えば、MRI(磁気共鳴画像法)スキャナーや超電導機器において、アルミニウムの非磁性特性は極めて重要です。
MRIスキャナーは高強度の磁場を使用し、人体の内部組織を詳細に観察するために磁気共鳴を利用します。
アルミニウムの非磁性特性により、患者や検査対象に影響を及ぼすことなく、高品質な画像を取得できます。
また、超電導機器は非常に低温で動作し、超電導状態で磁場を生成します。
アルミニウムの非磁性特性は、これらの機器が正確に動作し、磁場の安定性を保つのに役立ちます。
このため、アルミニウムは医療や科学の分野で、革新的な技術の発展に寄与しています。
5. 高導電性
アルミニウムは経済的な導電体として広く利用されています。
電気伝導率は銅の約60%に過ぎませんが、アルミニウムはその軽さからくる利点があり、送電線や導体の製造に幅広く採用されています。
アルミニウムを使用することで、電気の伝送効率を高めつつ、コストを抑えることができるのです。
具体的には、アルミニウムは銅と比べて同じ電気を送るために太い導線が必要ですが、その分、全体の重量は軽くなります。
この特性を利用して、高電圧送電線はアルミニウムを主要な素材として採用しています。
高導電性を持つアルミニウムが、電力を遠くまで効率的に伝送し、エネルギー損失を最小限に抑えるのに貢献しています。
このように、アルミニウムの経済的で効率的な導電性は、電力産業など多くの分野で重要な役割を果たしており、持続可能なエネルギー伝送に寄与しています。

6. 高熱伝導性
アルミニウムの熱伝導率は鉄の約3倍です。
この性質は冷却機器、エンジン部品、熱交換器、飲料缶など、多くの分野で利用されています。
- アルミニウム(Al): 約 237 W/(m・K)
- 鉄(Fe): 約 80 W/(m・K)
W/(m・K) は「ワットパー1メートル1ケルビン」を表し、これは特定の物質が1メートルの距離において1ケルビンの温度差に対してどれだけのエネルギーを伝達できるかを示す指標です。
高い熱伝導率は、熱が素材内で迅速に伝わることを示し、低い熱伝導率は逆に熱の伝達が遅いことを意味します。

7. 低温での靭性
アルミニウムの驚くべき性質の一つは、極低温下においてもその靭性を維持することです。
アルミニウムはマイナス196℃(液体窒素の温度)やマイナス183℃(液体酸素の温度)といった極端に低温な環境でも脆性破壊せずに柔軟性を保ちます。
これは非常に特筆すべきことで、宇宙開発、バイオテクノロジー、超電導関連などの最先端技術分野で重要な役割を果たしています。
たとえば、宇宙空間は極端な低温に晒されるため、宇宙船や衛星の材料としてアルミニウムの使用が一般的です。
また、バイオテクノロジー分野では冷却装置の一部にアルミニウムが採用され、極低温での実験が可能です。
同様に、超電導磁石にもアルミニウム部品が組み込まれ、低温下での超伝導を実現しています。
8. 無毒性
アルミニウムは無毒性の金属であり、人体に対して一般的には有害ではありません。
以下はアルミニウムの無毒性に関する具体的な説明です。
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食品包装:アルミニウムは食品包装業界で広く使用されています。アルミ箔やアルミ缶は、食品や飲料品を包むための一般的な材料です。これらの包装材料は食品の鮮度と安全性を保つのに役立ちます。アルミニウムは食品に移行しにくく、微量であっても毒性はありません。
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生体適合性:アルミニウムは医療分野でも使用され、人体との相性が良いことが知られています。例えば、人工関節や歯科インプラントの一部にアルミニウム合金が使用されています。これらの材料は生体内で安定して動作し、有害な反応を引き起こしません。
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薬品容器:アルミニウムは薬品容器や医薬品包装にも利用されています。薬品との相性が良く、薬品の品質や安全性を保つのに寄与します。
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無毒性:アルミニウム自体は無毒であり、一般的な環境条件下での曝露では健康に害を及ぼすことはありません。ただし、アルミニウムの粉末を吸入したり、高濃度のアルミニウム化合物に長期間曝露すると、呼吸器疾患や神経疾患などの健康問題が発生する可能性があるため、労働安全規則に従った取り扱いが必要です。
9. 光と熱の反射
アルミニウムは光や熱を効果的に反射します。
- 光線反射性:アルミニウムは赤外線や紫外線などの光線をよく反射します。
- 電磁波反射性:通信機器からの電磁波も反射する性質があります。
- 熱線反射性:熱線も効果的に反射することができます。
- 純度と反射率:純度が高いアルミニウムは、放射エネルギーの90%を反射する能力を持っています。特に純度99.8%のアルミニウムがその特性以上を示します
この特性は、暖房器、照明器具、宇宙服、光エレクトロニクス製品などに活用されています。
10. 表面加工の多様性
表面加工の多様性は、産業界において重要な要素であり、アルマイト、メッキ、塗装といった技術が特に目立ちます。
アルマイトは、硫酸皮膜や電解発色皮膜など、多彩なバリエーションを持ち、建築部材からカーテンウォールまで幅広い用途に使用されます。さらに、建築部材では、耐候性を向上させます。
メッキは、耐食性や美観を提供し、さまざまな金属に適用され、装飾的な要素から産業用途まで幅広く利用されています。
塗装は、アクリル、ポリエステル、ふっ素などの種類があり、特定の性能に応じて選択されます。アルミニウム平板に塗装したカラーアルミは、外観や耐候性を重視する場面で使用され、異なるポリマー系塗料の選択肢が提供されています。
11. 多様な鋳造可能性
アルミニウムはその低融点と流動性から、鋳造製品の製造に適しています。
これは自動車部品や産業機械部品など、広範な分野で広く活用されています。
たとえば、自動車エンジンのアルミニウムシリンダーブロックは、軽量性、熱伝導性、エンジン効率向上の特性を兼ね備えており、これらの要因が総合的に自動車の燃費向上と排気ガス削減に貢献しています。
このように、アルミニウムの特性は自動車産業をはじめとするさまざまな産業において、革新的な製品の開発と高度な性能の実現に寄与しています。
12. 加工性の高さ
アルミニウムの塑性加工性は、材料が比較的低い温度で柔らかくなる特性です。
これは、アルミニウムをある程度の熱を加えることで、容易に形状を変えることができることを意味します。
具体的には、鍛造(叩いて形を作る)、圧延(圧力をかけて平らにする)、押出し(金型を通して押し出す)、引っ張り(引っ張って細くする)、曲げ(曲げて形を変える)など、さまざまな塑性加工プロセスでアルミニウムを使うことができます。
この特性により、アルミニウムは加工性が非常に高く、設計の自由度が高い材料として広く活用されています。
13. 容易な接合性
アルミニウムは溶接、ろう付け、リベット接合、接着などで容易に継手を形成できます。
これらの接合技術は、車両や建築構造物などの製造に使用されています。
例: 自動車のボディパネルは、ろう付けや溶接によってアルミニウム部品が組み立てられています。
14. 高真空性
アルミニウムは真空装置の材料として優れており、ガス放出率が非常に低いため、高真空環境で使用されています。
高真空ポンプや半導体装置に利用されます。
例: 高真空の物理実験装置は、アルミニウム部品で構築され、高精度な測定が可能です。
15. 再生可能性
アルミニウムは再生が容易であり、エネルギー効率も高いです。
リサイクル運動において、飲料缶の回収と再資源化に貢献しています。
例: リサイクル工場では、使用済みのアルミニウム製品を再溶解し、新しい製品に再利用されます。
まとめ
アルミニウムの多彩な特性は、現代の産業界で不可欠なものとなっています。
その低密度、高強度、耐食性、熱伝導性、電気伝導性、再生可能性など、これらの特性は自動車、航空機、建築物、医療機器、環境保護など、さまざまな分野で幅広く活用されています。
アルミニウムは持続可能な未来を築くために不可欠な素材であり、今後もその研究と開発が進化し続けることでしょう。