「この形、何部品で作りますか?」
10部品。いや、20部品かもしれない。
組立工数、在庫管理、品質のばらつき——部品が増えるほど、コストとリスクも増えていく。
でも、もしその形が「1本の押出材」で作れるとしたら?
アルミニウムの成形加工性は、そんな発想の転換を可能にします。
このページでは、アルミが「形にしやすい」理由と、加工法ごとの使い分け、そして設計に活かすためのポイントを整理しました。
なぜアルミは「形にしやすい」のか
アルミニウムが多様な成形加工に適している理由は、3つあります。
1. 変形しやすい結晶構造
アルミニウムは「面心立方格子」という結晶構造を持っています。この構造は、原子がずれ動きやすい「すべり面」が多く、外力を加えたときに割れずに変形しやすい特性を生みます。
2. 融点が低く、熱間加工に有利
アルミの融点は約660℃。鉄(約1,540℃)に比べて大幅に低いため、加熱して柔らかくした状態での加工(熱間加工)が容易です。押出成形や鍛造で、複雑な形状を無理なく成形できる理由がここにあります。
3. 加工硬化しても、焼鈍で回復できる
冷間加工で硬くなっても、適切な熱処理で元の柔らかさに戻せます。複数回の加工を組み合わせた複雑な製造工程にも対応できる、しなやかな素材です。
加工法の比較——押出・鋳造・鍛造・板金、どう選ぶ?
アルミの成形加工にはいくつかの方法があります。形状、ロット、精度、コスト——何を優先するかで最適な選択が変わります。
| 加工法 | 形状の自由度 | 初期コスト | 量産コスト | 得意なロット | 向いている用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| 押出成形 | 断面形状◎ 長尺◎ | 中 | 低〜中 | 中〜大 | フレーム、レール、ヒートシンク |
| 鋳造・ダイカスト | 三次元形状◎ | 高 | 低 | 大 | 複雑な箱形状、エンジン部品 |
| 鍛造 | 単純形状○ 強度◎ | 中〜高 | 中 | 中〜大 | 高強度が必要な部品 |
| 板金・プレス | 曲げ・絞り○ | 低〜中 | 低 | 小〜大 | 筐体、カバー、パネル |
判断のポイント
- 「同じ断面が続く形状」 → 押出成形が圧倒的に有利
- 「複雑な三次元形状を大量に」 → ダイカスト
- 「強度最優先」 → 鍛造
- 「小ロットで板を曲げる」 → 板金
押出成形が解決する3つの課題
1. 部品統合——20部品が3部品になった話
ある産業機器メーカーの制御盤フレームの事例です。
Before:何に困っていたか
従来は、板金部品20点を溶接とボルトで組み立てていました。
- 部品ごとに図面を起こし、発注し、検品する
- 溶接工程で歪みが出て、修正が必要
- ボルト締結の工数が膨大
- 組立精度にばらつきが出る
- 在庫管理が煩雑
「設計は終わっているのに、作るのに手間がかかる」——そんな状態でした。
After:どう解決したか
フレーム構造を見直し、3本の押出材に統合しました。
具体的な形状:
- メインフレーム:コの字断面にリブを追加した中空構造。ボルト穴、配線溝を断面内に一体成形
- サイドレール:機器取付用のスライド溝を内蔵した異形断面
- ベースフレーム:床面固定用のフランジと、ケーブル通し穴を一体化
結果:
- 部品点数:20点 → 3点(85%削減)
- 組立工数:60%削減
- 溶接工程:ゼロ(継ぎ目がないため歪みもなし)
- 強度:15%向上(一体構造による剛性アップ)
- 組立精度:安定化(部品のばらつきが減った)
「組み立てる設計」から「最初から一体で作る設計」へ。
この発想の転換が、押出成形の本質的な価値です。
2. 断面設計の自由——中空、リブ、複雑形状
押出成形の最大の強みは、金太郎飴のように「どこを切っても同じ断面」を連続して作れること。
しかも、その断面は驚くほど自由に設計できます。
- 中空構造:軽量化と剛性の両立
- リブ構造:材料を最小限にしながら強度を確保
- 複合断面:ネジ穴、溝、嵌合部を一体成形
板金では「曲げて、溶接して、穴を開けて」と工程が増えるところを、押出なら最初から形になって出てきます。
【コラム】ダイスの「穴」を削る職人
押出成形の心臓部は「ダイス」と呼ばれる金型です。
基本的には「穴の空いた鋼板」。その穴の形が、そのまま製品の断面になる。原理はシンプルです。
でも、シンプルだからこそ奥が深い。
CADで設計した図面通りに穴を開けても、実際に押し出すとアルミの流れ方で微妙に形が変わる。肉厚が薄い部分は流れやすく、厚い部分は流れにくい。中空形状では、ブリッジ(材料を分流させる部分)の設計が製品の強度を左右する。
だから最後は、職人がワイヤーカットと手仕上げで微調整します。
0.1mmの違いが、製品の精度を左右する。
30,000種以上の形材を作ってきた経験は、この「0.1mmの感覚」の蓄積でもあります。
3. 試作から量産へのスムーズな移行
押出成形の金型(ダイス)は、ダイカストに比べて桁違いに安い。
なぜか。
構造がシンプルだからです。
ダイカストの金型は、溶けた金属を高圧で射出し、冷却し、取り出すための複雑な機構が必要です。可動部、冷却回路、イジェクトピン——精密な三次元構造を鋼材から削り出すため、費用も期間もかかります。
一方、押出成形のダイスは、基本的に「穴の空いた板」。その穴の形が、製品の断面になります。構造がシンプルな分、製作費も期間も抑えられます。
| 項目 | 押出成形 | ダイカスト |
|---|---|---|
| 金型の構造 | 断面形状の「穴」 | 三次元の「型」 |
| 金型費用 | 数十万円〜 | 数百万円〜 |
| 金型製作期間 | 2〜4週間 | 2〜6ヶ月 |
| 設計変更 | ダイス作り直しで対応可 | 金型再製作(高額) |
1つのダイスで、どれだけ作れるか
ダイスは消耗品ですが、適切な管理をすれば数トン〜数十トンの押出が可能です。
つまり、初期投資が数十万円で、そこから大量の製品を生み出せる。ロットが増えるほど、1本あたりの金型コストは限りなくゼロに近づいていきます。
「小ロットで試作し、うまくいけばそのまま量産」——この柔軟さが、押出成形の経済的な強みです。
産業別・こんな使われ方をしている
建築
窓枠サッシ、カーテンウォール、手すり、間仕切りフレーム。
建築分野では、押出材の「長尺で均一な断面」という特性がフル活用されています。気密性、水密性を確保するための複雑な溝形状も、一体で成形可能です。
自動車
サンルーフレール、バンパーリインフォース、バッテリーケースのフレーム。
軽量化が燃費に直結する自動車では、中空押出材による「軽くて強い」構造設計が進んでいます。衝突時のエネルギー吸収構造にも、押出材の断面設計自由度が活きています。
産業機器
制御盤フレーム、搬送装置のガイドレール、作業台の構造材。
FA(ファクトリーオートメーション)分野では、アルミフレームシステムが標準的な構造材として定着。規格化された押出材を組み合わせることで、設計・組立の効率化が図られています。
電子機器
ヒートシンク、筐体、ラックマウント用レール。
放熱が必要な電子機器では、フィン形状を一体成形したヒートシンクが多用されます。押出成形なら、細かいフィンを精度よく、長尺で作れます。
成形設計で押さえておくこと
合金の選び方——なぜ6063が多いのか
押出成形に最も多く使われるのは6000系(Al-Mg-Si系)合金、中でもA6063が圧倒的です。
なぜか。
「押出しやすさ」と「仕上がりの美しさ」のバランスが抜群だからです。
A6063は、加熱したときの変形抵抗が低く、複雑な断面でも金型をスムーズに通過します。押出後の表面も滑らかで、アルマイト処理との相性も良い。
つまり、「作りやすく、見た目も良く、コストも抑えられる」——汎用性の王様です。
| 合金 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| A6063 | 押出性◎、耐食性◎、表面仕上げ◎ | サッシ、装飾材、汎用フレーム |
| A6061 | 強度○、溶接性○ | 構造材、輸送機器 |
| A6005C | 6063と6061の中間 | 鉄道車両、大型構造材 |
強度が必要なら6061、さらに大型構造材なら6005C。でも、まず検討すべきは6063。そこから要件に応じて調整する、というのが実務的な判断の流れです。
断面設計のコツ
1. 肉厚は均一に
肉厚が極端に変わる断面は、押出時に材料の流れが乱れ、寸法精度が出にくくなります。
2. 中空にするなら「ブリッジ」を意識
中空形状は、金型内で材料が一度分かれて再び合流する構造(ポートホールダイ)で成形します。合流部(ウェルドライン)の強度を考慮した設計が必要です。
3. 「押出でできること」の限界も知る
- 断面の最小肉厚:一般的に1.0〜1.5mm以上
- 外接円径:プレスのサイズにより制限あり(一般的に〜400mm程度)
- 長さ:6m、7m、12mなど、設備により異なる
「この形状、押出で可能か?」——迷ったら、押出メーカーに相談するのが最短ルートです。
まとめ——「形にする」から「形で解決する」へ
アルミニウムの成形加工性、特に押出成形は、単に「形を作る手段」ではありません。
- 部品を減らす
- 工程を減らす
- コストを減らす
- 強度を上げる
「形状」そのもので課題を解決する設計アプローチを可能にする、戦略的な武器です。
「この部品、何部品で作っていますか?」
その問いに、押出成形が新しい答えを出せるかもしれません。
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