実は、アルミニウムも「錆びて」います。
空気に触れた瞬間から、表面は酸化しています。
ただし、その「錆び方」が鉄とは根本的に違います。
この違いこそが、アルミニウムの優れた耐食性を生み出しています。
アルミニウムは、優れた耐食性を持つ金属として知られています。建築用サッシ、船舶部品、食品容器など、腐食が問題となりやすい環境でも長期間にわたって使用されています。
この耐食性は、どのようなメカニズムで実現されているのでしょうか。
鉄の赤錆はなぜ止まらないのか
鉄が水分と酸素に触れると、表面に赤錆(酸化鉄)が発生します。
この赤錆には、致命的な弱点があります。
赤錆は「スカスカ」の構造をしているということです。多孔質で隙間だらけのため、水分や酸素が内部に侵入し続けます。つまり、赤錆には下地を守る力がありません。
さらに厄介なことに、錆そのものが水分や汚れを留めやすく、表面の凹凸が反応面積を増やします。その結果、一度錆び始めると腐食は加速度的に進行していきます。
一般的な鉄鋼材料を水中に置いた場合、腐食速度は年間約0.1mmと言われています。10年で1mm、表面から削られていく計算です。塩分を含む環境や、水の流れがある場所では、この速度はさらに速くなります。
放置すれば、鉄は朽ちていきます。
アルミニウムの「賢い錆」
一方、アルミニウムが空気に触れると、表面に酸化アルミニウム(Al₂O₃)の皮膜が形成されます。
この皮膜は、赤錆とはまったく性質が異なります。
| 特性 | 鉄の赤錆 | アルミの酸化皮膜 |
|---|---|---|
| 構造 | 多孔質(スカスカ) | 緻密(隙間がない) |
| 透明性 | 不透明(茶色) | 透明(外観を損なわない) |
| 安定性 | 不安定(反応が続く) | 安定(それ以上変化しない) |
| 保護機能 | なし | あり |
アルミニウムの自然酸化皮膜は、厚さわずか2〜20ナノメートル。髪の毛の太さ(約50マイクロメートル)と比べると、約2,500〜25,000分の1という薄さです。
しかし、この極薄の膜が「盾」として機能します。緻密で隙間がないため、外部からの水分や酸素の侵入を防ぎ、内部のアルミニウムを守ります。
自己修復という特性
アルミニウムの酸化皮膜には、もうひとつ優れた特性があります。
傷がついても、空気に触れれば瞬時に再生するということです。
切削加工や研磨で表面が削られても、新しい面が空気に触れた瞬間から酸化皮膜が形成され始めます。いわば「自己修復する鎧」です。
鉄の場合、塗装や防錆処理が剥がれた部分から錆が発生し、そこを起点に腐食が広がります。アルミニウムでは、このような「傷口からの崩壊」が起きにくいのです。
アルマイト処理:二段構えの防御
自然酸化皮膜だけでも優れた耐食性を発揮しますが、より過酷な環境で使用する場合には、人工的に皮膜を厚くする処理が行われます。
これがアルマイト処理(陽極酸化処理)です。
アルマイト処理では、電解液中でアルミニウムに電気を流すことで、酸化皮膜を人工的に成長させます。
| 皮膜の種類 | 厚さ | 自然皮膜との比較 |
|---|---|---|
| 自然酸化皮膜 | 2〜20nm | — |
| 一般アルマイト | 5〜25μm | 約250〜12,500倍 |
| 硬質アルマイト | 20〜70μm | 約1,000〜35,000倍 |
さらに、アルマイト皮膜には無数の微細な孔があり、これを封孔処理で塞ぐことで、耐食性をさらに向上させることができます。
「素地のままでも錆びにくいが、処理をすればさらに強くなる」—この二段構えの防御力が、アルミニウムの信頼性を支えています。
50年以上の実績
アルミニウムの耐食性は、理論だけでなく実績でも証明されています。
日本でアルミサッシが本格的に普及し始めたのは1960年代。以来、建築物の窓枠やカーテンウォールとして50年以上にわたり使用され続けています。
一般的な大気環境において、アルマイト処理を施したアルミニウム建材は、良好な耐久性を維持することが確認されています。年に数回の軽い水拭き程度のメンテナンスで、長期間にわたって性能を保つことができます。
船舶や道路標識、ガードレールなど、屋外の厳しい環境にさらされる用途でも、アルミニウム(特に5000系や6000系などの耐食性に優れた合金)は広く採用されています。
注意が必要な環境
ただし、アルミニウムは万能ではありません。
酸性・アルカリ性環境
アルミニウムは「両性金属」と呼ばれ、強い酸性環境にも、強いアルカリ性環境にも弱い性質があります。特にアルカリ性環境では、酸化皮膜が溶解しやすく、腐食が進行する可能性があります。
コンクリートから溶け出すアルカリ成分や、一部の洗剤との接触には注意が必要です。
異種金属接触腐食(電蝕)
アルミニウムと鉄、あるいは銅などの異なる金属が、水分を介して接触すると、電池のような状態が生まれ、アルミニウム側が優先的に腐食する現象が起きます。これを異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)と呼びます。
特に海水環境では、この腐食が深刻になることがあります。対策としては、絶縁材の挿入や、防食塗装などが用いられます。
なお、ステンレス鋼(18Cr-8Ni系)との組み合わせでは、海水中に長時間浸漬するような極端に厳しい条件を除けば、比較的問題なく使用できることが知られています。これは、ステンレス鋼表面の分極が大きく、腐食電流が小さくなるためです。
まとめ:アルミニウムの耐食性を活かすために
| 観点 | 鉄 | アルミニウム |
|---|---|---|
| 酸化皮膜 | 保護機能なし | 緻密で安定 |
| 腐食の進行 | 加速度的に継続 | 皮膜形成で停止 |
| 自己修復 | 不可 | 可能 |
| 腐食速度(水中) | 約0.1mm/年 | 実質ゼロ |
| 建築での実績 | 防錆処理が必須 | 50年以上 |
アルミニウムの優れた耐食性は、「錆びない」のではなく「賢く錆びる」ことによって実現されています。
ただし、この特性を最大限に活かすには、使用環境に応じた適切な合金選定と設計上の配慮が欠かせません。異種金属との接触を避ける、pH環境を考慮する—こうした基本を押さえることで、アルミニウムは長期にわたって信頼性の高い素材として機能します。
参考 アルミニウムの腐食メカニズムや防食設計の詳細については、専門技術資料をご参照ください。
