私たちは毎日、アルミを「焼いて」います。
押出工場では、450℃を超える温度でアルミを加熱し、巨大な圧力で金型から押し出す。
その後、冷却し、さらに適切な温度で「焼き直す」。
なぜ、そんなことをするのか。
アルミニウムは、温度と時間をコントロールしないと、本来の強さが出ないからです。
私たちは毎日、温度と時間と向き合っている。だからこそ、「高温で強度が落ちる」理由がよくわかる。
そして、お客様に知っておいていただきたいのです。
せっかく手間をかけて作った強さが、使用環境によっては失われてしまうことを。
アルミニウムの「強さ」は、どこから来るのか
アルミニウムという金属は、純粋な状態ではとても柔らかい。 1円玉を思い浮かべてください。あれは純度99%以上のアルミニウム。簡単に曲がります。
では、なぜ自動車や航空機、建築に使えるほどの強度が出るのか。
答えは、合金化と熱処理です。
熱処理型合金の仕組み——6000系を例に
建築や産業機械で最も広く使われる6000系合金。 この合金の主な添加元素は、マグネシウム(Mg)とシリコン(Si)です。
強度が出るメカニズム:
ステップ1:固溶(こよう)
高温(約500℃以上)に加熱すると、MgとSiはアルミの結晶の中に「溶け込み」ます。 砂糖が熱い紅茶に溶けるようなイメージです。
この状態を「固溶体」と呼びます。
ステップ2:急冷(焼き入れ)
高温のまま放置すると、溶け込んでいたMgとSiが勝手に出てきてしまう。 だから、急いで冷やす。
急冷することで、MgとSiが「溶けたまま凍る」。 本来は出てきたいのに、出てこられない状態で固定される。
これを「過飽和固溶体」と呼びます。
ステップ3:時効処理(じこうしょり)
ここからが熱処理の本番です。
過飽和固溶体を、適切な温度(150℃〜200℃程度)で適切な時間保持する。
すると、凍っていたMgとSiが、ゆっくりと、極めて微細な粒として析出し始める。 この微細な析出物を「Mg₂Si(マグネシウムシリサイド)」と呼びます。
この微細な析出物こそが、強度の源です。
金属が変形するとき、内部では「転位」と呼ばれる結晶の欠陥が動きます。 微細な析出物は、この転位の動きを邪魔する「障害物」になる。
障害物が多いほど、変形しにくい。つまり、硬く、強くなる。
T5とT6——温度と時間の芸術
押出材でよく見る「T5」「T6」という記号。 これは熱処理の種類を表しています。
| 調質 | 処理内容 |
|---|---|
| T5 | 押出直後の高温から急冷 → 人工時効 |
| T6 | 別途溶体化処理 → 急冷 → 人工時効 |
T6はT5より強度が高い傾向にあります。
なぜか。
T6は、押出後にもう一度高温に加熱して「完全に溶かし直す」。 だから、より多くのMgとSiが固溶し、より多くの析出物を作れる。
私たちは、温度と時間を1℃、1分単位でコントロールしています。
時効温度が低すぎると、析出が不十分で強度が出ない。 高すぎると、析出物が粗大化して効果が弱まる。 時間が短すぎても、長すぎてもダメ。
この「ちょうどいい」ところを狙って、合金ごとに最適な条件を設定している。
それが、熱処理の現場です。
では、高温にさらされると何が起きるか
ここからが本題です。
せっかく手間をかけて作った「微細な析出物」。 これが、高温環境で壊れてしまうのです。
150℃〜200℃:過時効(オーバーエイジング)
この温度域に長時間さらされると、微細だった析出物がくっついて大きくなる。
小さな障害物がたくさんあったのが、大きな障害物が少しになる。
転位は、大きな障害物は迂回できてしまう。 だから、強度が落ちる。
これを「過時効」または「オーバーエイジング」と呼びます。
200℃以上:再固溶
さらに温度が上がると、析出物がまたアルミの中に溶け込み始める。
つまり、熱処理で作った構造が「戻って」しまう。
極端に言えば、合金が「合金としての強さ」を失う。
アルミは合金でなくなりはしませんが、熱処理で得た強度は失われる。 せっかくのT6が、T4相当、あるいはそれ以下に戻ってしまうこともある。
非熱処理型合金も無縁ではない
「うちは5000系だから、熱処理していないし大丈夫」
そう思われるかもしれません。
しかし、非熱処理型合金も高温で軟化します。
5000系、3000系、1000系の強度の源
これらの合金は、熱処理では強度が出ません。 代わりに「加工硬化」で強度を出しています。
圧延、引抜き、プレス——物理的に叩いて、伸ばして、金属内部の結晶構造を乱す。 この「乱れ」が硬さになる。
H14、H24などの「H」は、この加工硬化(Hardening)を意味します。
高温で何が起きるか
加工硬化で溜め込んだ「結晶の乱れ」が、熱によって整理されてしまう。
これを「回復」「再結晶」と呼びます。
叩いて硬くしたものが、熱で柔らかく戻る。
どちらの合金タイプも、高温には弱い。メカニズムが違うだけです。
| 合金タイプ | 高温での挙動 |
|---|---|
| 熱処理型(2000系、6000系、7000系) | 析出物の粗大化・再固溶 → 強度低下 |
| 非熱処理型(1000系、3000系、5000系) | 加工硬化の消失(回復・再結晶) → 軟化 |
「150℃以上」とは、どんな環境か
「150℃なんて、普通の使い方じゃならないでしょ?」
そう思われるかもしれません。 しかし、意外と身近なところに「高温」は潜んでいます。
自動車のエンジンルーム
エンジン本体は100℃を軽く超えます。 エンジンに近い部品——ブラケット、マウント、インテーク周り——は、80℃〜150℃の環境にさらされることがあります。
夏場、渋滞でアイドリングが続くと、エンジンルーム内の温度はさらに上昇します。
LED照明の放熱部品
LED自体は熱を持ちます。 その熱を逃がすためのヒートシンク(放熱フィン)には、アルミがよく使われます。
しかし、放熱するということは、自分も熱くなるということ。 高出力LEDのヒートシンクは、80℃〜120℃になることがあります。 設計によっては、それ以上も。
工場内の熱源近く
炉の近く、蒸気配管の近く、乾燥炉の周辺。 これらの場所に設置される構造物は、輻射熱で予想以上に温度が上がることがあります。
電子機器の内部
CPUやパワー半導体は、動作時に高温になります。 これらを冷却するためのアルミ製ヒートシンクや筐体は、局所的に高温にさらされます。
太陽光による加熱
黒い塗装の屋外機器は、直射日光で表面温度が70℃〜80℃に達することがあります。 中東や赤道付近では、さらに高温になる可能性も。
温度だけではない——時間と荷重の関係
高温環境での強度低下は、温度だけでなく「時間」と「荷重」の組み合わせで深刻さが変わります。
短時間なら問題ないことも
150℃に一瞬触れるだけなら、析出物の変化はほとんど起きません。 問題は、その温度に長時間さらされる場合です。
クリープ——じわじわ変形する
高温環境で荷重がかかり続けると、「クリープ」という現象が起きます。
常温なら変形しない程度の荷重でも、高温で長時間かかり続けると、金属がじわじわと変形していく。
ある日気づいたら、ボルト穴がずれている。フランジが反っている。 そういう事故は、クリープが原因であることがあります。
設計で考えるべきは、「最高温度」だけではない。 「その温度に、どれくらいの時間さらされるか」「荷重はかかるか」も重要です。
🍳 コラム:目玉焼きとアルミフライパン
朝食に目玉焼きを焼く。 フライパンの温度は、約170℃〜180℃。
もしそれがアルミ製のフライパンなら、熱処理型アルミ合金の「過時効」が始まる温度域にいます。
でも、フライパンは壊れない。なぜか?
荷重がかかっていないからです。
卵を支えるだけ。構造的な強度は求められていない。
そして、時間が短い。 目玉焼きを焼くのは数分。その程度では、析出物の変化はほとんど起きません。
さらに言えば、アルミのフライパンに求められるのは「強度」より「熱伝導」。 熱を素早く均一に伝えることが仕事であり、重いものを支える仕事ではない。
では、もし同じ温度で、常に荷重がかかり続ける部品だったら?
話はまったく変わります。
エンジンマウント、構造ブラケット、機械フレーム—— これらは、熱と荷重と時間のすべてが組み合わさる。
同じアルミでも、フライパンと構造部品では、「熱との付き合い方」がまるで違うのです。
耐熱性の高い合金という選択肢
「高温環境で使いたい。でもアルミの軽さは捨てられない。」
そういう場合、耐熱性に優れた合金を選ぶという選択肢があります。
鋳造用合金:AC8A、AC9Bなど
エンジンピストンに使われる合金。 シリコンを多く含み、高温での強度保持に優れています。 ただし、これらは鋳造用であり、押出材には適用されません。
押出用で比較的耐熱性のある合金
一般的な6063に比べ、2000系(Al-Cu系) は高温強度の低下が緩やかな傾向があります。 ただし、2000系は耐食性に劣るため、用途を選びます。
7000系の一部も、合金設計によっては比較的高温まで強度を保つものがあります。
いずれにしても、「150℃以上で常時使用」となると、アルミニウムは慎重な検討が必要です。 場合によっては、チタン合金、耐熱鋼、あるいはセラミックスという選択肢も視野に入れる必要があります。
「熱を逃がす設計」という発想
合金選定だけが対策ではありません。
「そもそも温度を上げない」という設計アプローチも有効です。
放熱フィンの一体成形
押出成形の強みは、複雑な断面を一体で作れること。 放熱フィンを別部品で取り付けるのではなく、押出形材と一体で成形すれば、熱を効率よく逃がせます。
強制冷却
ファンやブロアで空気を流し、部品の温度上昇を抑える。
断熱・遮熱
熱源とアルミ部品の間に断熱材を挟む、遮熱板を設ける。 輻射熱を反射するコーティングも効果があります。
熱経路の設計
熱が伝わる経路を設計でコントロールし、重要な部分に熱が集中しないようにする。
アルミニウムは熱伝導率が高い金属です。 これを「弱点」と見るか「武器」と見るかは、設計次第。
熱を素早く拡散させて局所的な高温を防ぐ——そういう設計思想もあります。
温度を知り、時間を知り、荷重を知る
高温環境でアルミニウムを使うとき、最も大切なのは実態を正確に把握することです。
- 温度:部品が実際に何℃になるか(周囲温度ではなく、部品自体の温度)
- 時間:その温度に、どれくらいの時間さらされるか
- 荷重:高温時に、どれくらいの力がかかるか
これらがわかれば、対策が立てられます。
「なんとなく熱くなりそう」ではなく、「実測で120℃、年間2000時間、常時引張荷重50kN」。 ここまで把握できれば、材料選定も設計も精度が上がります。
私たちができること
加藤軽金属工業は、押出形材のメーカーです。
高温環境での使用が想定される場合、ご相談いただければ、
- 用途に適した合金・調質のご提案
- 放熱フィン一体型形材の設計協力
- 熱処理条件の最適化
など、押出メーカーとしての知見でお手伝いできます。
私たちは毎日、温度と時間をコントロールしてアルミを作っています。
だからこそ、「熱との付き合い方」についてはお伝えできることがある。
「この部品、熱くなるけどアルミで大丈夫かな?」
その疑問をお持ちでしたら、ぜひご相談ください。
まとめ
- アルミの強度は熱処理で作られる:微細な析出物が転位の動きを邪魔することで硬くなる
- 高温にさらされると強度が落ちる:析出物の粗大化・再固溶で「熱処理が戻る」
- 非熱処理型合金も同様:加工硬化が熱で消失し、軟化する
- 150℃以上の環境は意外と身近:エンジンルーム、LED放熱部品、工場内熱源、電子機器内部
- 温度だけでなく、時間と荷重も重要:クリープによる変形に注意
- 対策は複数ある:耐熱合金の選定、熱を逃がす設計、断熱・遮熱
アルミニウムは、正しく理解して使えば、軽さと強度を両立できる優れた素材です。
その「正しく理解する」の中に、熱との付き合い方がある。
私たちは毎日、アルミを焼いて、冷やして、また焼いて、強さを作り出しています。
その経験から言えるのは、アルミニウムは熱に対してデリケートな素材だということ。
でも、デリケートだからこそ、丁寧に扱えば応えてくれる。
それが、アルミニウムという金属です。
