反射率では銀が1位。しかし——
光を最も効率よく反射する金属は、銀です。可視光の反射率は97〜98%に達します。
アルミニウムは90〜92%。数値だけを見れば、銀に劣ります。
しかし、照明器具の反射板、人工衛星の断熱材、建築用の遮熱シート——実際に使われているのは、圧倒的にアルミニウムです。
なぜ「2位」の素材が選ばれるのか。その理由を理解することは、反射性能を必要とする設計において、最適な素材選定の指針となります。
金属が光を反射するメカニズム
金属が光を反射するのは、内部に存在する「自由電子」のはたらきによります。
金属原子が集まると、各原子の価電子は原子核の束縛から解放され、金属内を自由に移動できるようになります。これが自由電子です。
光(電磁波)が金属表面に当たると、この自由電子が電磁波のエネルギーを受け取り、振動します。そして、そのエネルギーを再び外部に放出します。これが反射の正体です。
電気伝導度が高い金属ほど、自由電子が多く、光を効率よく反射します。反射率の順位は、おおむね電気伝導度の順位と一致します。銀、アルミニウム、銅の順です。
波長域ごとの反射率
反射率は波長によって異なります。「反射率90%」という数値だけでは、どの波長域の話なのかが分かりません。
以下に、代表的な波長域ごとの反射率を示します。
| 波長域 | アルミニウム | 銀 | 用途例 |
|---|---|---|---|
| 可視光(400-700nm) | 90-92% | 97-98% | 照明、ミラー |
| 近赤外線(0.7-3μm) | 93-95% | 97-98% | センサー |
| 遠赤外線(3-10μm) | 95-97% | 97-98% | 断熱材 |
| 遠赤外線(10μm以上) | 最大99% | — | 建築遮熱 |
| 紫外線(UV-C:200-280nm) | 80%以上 | 酸化で低下 | 殺菌装置 |
注目すべき点がいくつかあります。
まず、アルミニウムは波長が長くなるほど反射率が向上します。遠赤外線領域では99%に達することもあり、熱線の反射においては銀に匹敵する性能を発揮します。
また、紫外線領域での反射率は、他の金属には見られないアルミニウム独自の特性です。銀は紫外線に曝されると表面が酸化して黒ずみ、反射率が低下しますが、アルミニウムは安定しています。
なぜアルミニウムが選ばれるのか——銀との比較
純粋な反射率では銀が優れています。しかし、実用面では異なる評価になります。
| 比較項目 | アルミニウム | 銀 |
|---|---|---|
| 可視光反射率 | 90-92% | 97-98% |
| 材料コスト | 低い | 高い(約60倍) |
| 酸化耐性 | 強い(皮膜が保護) | 弱い(黒ずむ) |
| 比重 | 2.7 | 10.5 |
| 加工性 | 押出・曲げ・プレスが容易 | 良好 |
コスト:銀の価格はアルミニウムの約60倍。広い面積をカバーする用途では、この差は決定的です。
耐久性:銀は空気中の硫化物と反応して黒ずみます。一方、アルミニウムは酸化しても、形成される酸化皮膜が透明で緻密なため、反射率がほとんど低下しません。これは長期的な性能維持において大きな優位性となります。
軽さ:アルミニウムの比重は銀の約4分の1。宇宙用途や携帯機器など、重量が制約となる分野では、この差が素材選定を左右します。
つまり、反射率の「差」よりも、コスト・耐久性・軽さの「差」の方が大きいのです。
応用事例:どこで使われているか
照明器具の反射板
照明器具内部の反射板は、光源からの光を効率よく下方に導く役割を担います。
反射板を白色(反射率約60%)から銀色のアルミ(反射率70-95%)に変えると、照明効率は最大30%向上するとされています。同じ明るさを、より少ない電力で実現できます。
高反射アルミ材「MIRO」は、アルミニウムに陽極酸化処理と高純度アルミの真空蒸着、さらに増反射処理を施した製品で、可視光全反射率95%を達成しています。これはガラス鏡(85〜87%)を上回る性能です。
宇宙用断熱材(MLI)
人工衛星の表面を覆う金色や銀色のシートは、多層断熱材(Multi Layer Insulation:MLI)と呼ばれるものです。
その構造は、アルミを蒸着したポリイミドフィルムを10〜20層重ねたもの。アルミの低い熱放射率(=高い反射率)を利用して、太陽からの輻射熱の侵入を防ぎ、同時に衛星内部の熱の放散も抑制します。
宇宙服にも同様の技術が使われており、+100℃から-180℃という過酷な温度環境での活動を可能にしています。
「こうのとり」や国際宇宙ステーション「きぼう」にも、日本製のMLIが採用されています。
光ダクトシステム
光ダクトとは、自然光を建物内部に導くシステムです。鏡面アルミニウムの高い反射率を利用して、屋外の光を反射の連続で室内に運び、照明として活用します。
1997年、沖縄県庁地下駐車場に国内初の光ダクト照明装置が納入されました。電力を使わない自然光照明として、省エネルギーに貢献しています。
UV殺菌装置
紫外線(特にUV-C:波長254nm付近)は、細菌やウイルスのDNAを破壊する殺菌効果を持ちます。
アルミニウムは、この波長域でも80%以上の反射率を維持できます。殺菌装置の内部にアルミ反射板を設置することで、紫外線を効率よく対象物に照射でき、殺菌効率は130〜160%向上したという報告もあります。
表面処理による性能向上
アルミニウムの反射率は、表面状態によって大きく変動します。逆に言えば、適切な表面処理により、性能を大幅に向上させることができます。
| 表面状態 | 可視光反射率 |
|---|---|
| 一般的なアルミ板 | 70-85% |
| 鏡面研磨 | 85-90% |
| 高反射アルマイト処理(MIRO) | 95% |
| 銀蒸着+保護膜(MIRO Silver) | 98% |
アルマイト処理(陽極酸化処理)を施すと、表面に透明で硬い酸化皮膜が形成され、反射面を保護しながら反射率を維持できます。
さらに高い反射率が求められる場合は、アルミ基材の上に高純度アルミや銀を真空蒸着し、その上に保護膜を形成する方法が用いられます。
設計時の考慮点
正反射と拡散反射
鏡面仕上げのアルミは、入射した光を一方向に反射します(正反射)。照明器具のスポット的な配光制御に適しています。
一方、梨地やエンボス加工を施したアルミは、光を様々な方向に散乱させます(拡散反射)。均一な明るさが求められる用途に向いています。
用途に応じて、適切な表面仕上げを選択する必要があります。
純度と合金種
反射率は純度が高いほど向上します。最高の反射性能が求められる場合は、99.9%以上の高純度アルミ(1000系)が選択されます。
ただし、高純度アルミは強度が低いため、構造的な要求がある場合は5000系や6000系合金が使われることもあります。反射率と強度のバランスを考慮した素材選定が必要です。
酸化皮膜の影響
アルミニウムは空気中で自然に酸化皮膜を形成します。この皮膜は透明で薄い(2〜20nm)ため、可視光から赤外線の反射率にはほとんど影響しません。
しかし、紫外線領域では酸化皮膜の影響が現れる場合があります。紫外線用途では、酸化皮膜の管理や、真空蒸着による新鮮なアルミ表面の形成が重要になります。
まとめ:「最高」ではなく「最適」
アルミニウムは、反射率の「最高値」では銀に譲ります。
しかし、コスト、耐久性、軽さ、加工性、そして幅広い波長域での安定した性能を総合すると、多くの用途において「最適」な選択肢となります。
| 観点 | アルミニウムの位置づけ |
|---|---|
| 可視光反射率 | 銀に次ぐ2位(90-92%) |
| 赤外線反射率 | 銀とほぼ同等(95-99%) |
| 紫外線反射率 | 金属中トップクラス(80%以上) |
| コストパフォーマンス | 圧倒的に優位 |
| 長期安定性 | 酸化皮膜が保護、性能維持 |
設計において重要なのは、「最も高い反射率の素材」を選ぶことではなく、「要求性能を満たしつつ、コスト・耐久性・加工性のバランスが取れた素材」を選ぶことです。
その観点から、アルミニウムは光と熱をコントロールする設計において、最も現実的で効果的な選択肢のひとつであり続けています。
関連情報 反射率を活かしたアルミニウム製品の設計・加工については、専門技術資料をご参照ください。
