【低温靭性】アルミニウムは、なぜ極低温でも割れないのか

鉄は冷えると脆くなる

1912年、タイタニック号が沈没しました。

氷山に衝突したことは有名ですが、なぜあれほど大きな船体が真っ二つに割れたのか。

原因のひとつとして指摘されているのが、船体の鋼材が低温で脆くなっていたことです。

北大西洋の冷たい海水に長時間さらされた鋼鉄は、衝撃を吸収する能力(靭性)を失っていた。
だから、氷山との衝突で一気に亀裂が広がり、船体が破断した。

これを「低温脆性」と呼びます。

鉄だけではありません。
多くの金属は、温度が下がると硬くなる代わりに、ガラスのように脆くなる性質があります。

しかし、アルミニウムは違います。


目次

アルミニウムは低温でも「粘り強い」

アルミニウムは、極低温でも靭性(粘り強さ)を維持します。

-162℃のLNG(液化天然ガス)タンク。
-253℃の液体水素を貯蔵するロケット燃料タンク。

これらの極限環境で、アルミニウム合金が選ばれる理由がここにあります。

低温でも割れない。

この性質を「低温靭性」と呼びます。


なぜアルミは低温でも粘り強いのか

答えは、原子の並び方にあります。

面心立方格子(FCC)構造

金属の原子は、規則的なパターンで並んでいます。
これを「結晶構造」と呼びます。

アルミニウムの結晶構造は「面心立方格子(FCC)構造」。

この構造の特徴は、「滑り面」が多いこと。

金属が変形するとき、原子の配列がズレて動きます(これを「転位」と呼びます)。
滑り面が多いほど、転位がスムーズに動ける。
スムーズに動けるほど、材料はしなやかに変形できる。

FCC構造を持つアルミニウムは、温度が下がって原子の動きが鈍くなっても、滑り面が十分にあるため、粘り強さを保てるのです。

鉄は「体心立方格子(BCC)構造」

一方、鉄(常温)の結晶構造は「体心立方格子(BCC)構造」。

BCC構造は、FCC構造に比べて滑り面が少ない。

常温では問題なく変形できますが、低温になると原子の動きが制限され、転位が動きにくくなる。
結果として、変形できずにパキッと割れる

これが低温脆性のメカニズムです。

結晶構造代表的な金属低温での特性
面心立方格子(FCC)アルミニウム、銅、ニッケル低温でも靭性を維持
体心立方格子(BCC)鉄(常温)、クロム低温で脆くなる

■ コラム:タイタニック号の教訓

タイタニック号の残骸から回収された鋼材を調べた結果、 硫黄の含有量が多く、低温脆性が起こりやすい材質だったことがわかりました。

当時の製鋼技術では、硫黄を完全に除去することが難しかった。
そして、低温脆性という現象自体が、まだ十分に理解されていなかった。

現代の船舶では、低温環境で使う鋼材には厳しい規格が設けられています。
衝撃試験(シャルピー試験)で、低温での靭性を確認することが義務付けられている。

タイタニック号の悲劇は、材料選定の重要性を世界に教えました。

そして、低温環境で確実に粘り強さを保つ材料として、 アルミニウム合金が選ばれるようになったのです。


低温で「強度も上がる」

興味深いことに、アルミニウムは低温になると強度も向上します。

温度引張強さの傾向靭性の傾向
常温基準基準
低温(-100℃以下)上昇維持
極低温(-200℃以下)さらに上昇維持

鉄鋼材料は、低温で強度が上がる代わりに靭性が低下する(脆くなる)。

しかしアルミニウムは、強度が上がりながら、靭性も維持される

これが、極低温環境でアルミニウムが選ばれる決定的な理由です。


低温で使われる代表的な合金

すべてのアルミニウム合金が同じ低温特性を持つわけではありません。
特に低温靭性に優れた合金が、極低温環境で使われています。

5083合金(Al-Mg系)

  • 用途:LNGタンク(-162℃)
  • 特徴:優れた低温靭性、良好な溶接性、耐食性
  • 実績:世界中のLNG船・LNG貯蔵タンクで長年使用

2219合金(Al-Cu系)

  • 用途:ロケット燃料タンク(液体水素-253℃、液体酸素-183℃)
  • 特徴:高強度、良好な溶接性、極低温での安定した特性
  • 実績:スペースシャトルの外部燃料タンク、各国のロケット

6000系合金

  • 用途:低温配管のサポート材、冷凍倉庫の構造材
  • 特徴:押出加工性に優れ、汎用性が高い
  • 注意:5083や2219ほど極低温に特化していないが、一般的な低温環境では十分な靭性

■ コラム:宇宙ステーション「きぼう」の素材

国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」。

その主構造部材には、アルミニウム合金(2219合金)が使われています。

宇宙空間は、日向では+120℃、日陰では-150℃という過酷な温度変化。
この極端な環境で、構造材は破壊されてはならない。

2219合金は、この温度範囲全体で安定した機械的特性を発揮し、
「きぼう」の安全な運用を支えています。

極低温での信頼性が、宇宙開発を可能にしている。


低温で使用する際の注意点

アルミニウムが低温に強いとはいえ、設計上の配慮は必要です。

溶接部の特性

溶接を行うと、熱影響部(HAZ)の金属組織が変化します。
低温環境で使う場合、溶接部の靭性も確認が必要です。

5083合金や2219合金が低温用途に選ばれる理由のひとつは、 溶接後も低温靭性が維持されることです。

熱膨張係数の違い

アルミニウムの線膨張係数は、鉄の約2倍。

極低温まで冷却されると、大きく収縮します。
異種金属と組み合わせる場合、この収縮量の違いが応力を生む可能性がある。

接合部の設計では、この熱収縮を考慮した「逃げ」が必要です。

材料証明の確認

極低温用途では、材料の化学成分や機械的特性が厳しく管理されます。
ミルシート(材料証明書)で、低温での衝撃試験結果を確認することが重要です。


逆に「熱い」とどうなるのか

アルミニウムは低温に強い。

では、高温ではどうか。

実は、アルミニウムは高温には弱い金属です。

融点が約660℃と低く、100℃を超えるあたりから強度が低下し始めます。
200℃以上では、常温の半分以下の強度になることも。

低温では頼もしいアルミニウムですが、高温環境では注意が必要です。

高温での強度低下については、別記事「アルミニウムの耐熱限界と高温での注意点」で詳しく解説しています。


まとめ

  • 低温脆性:多くの金属は低温で脆くなる(タイタニック号の教訓)
  • アルミニウムは例外:FCC構造により、低温でも靭性を維持
  • 低温で強度も上がる:靭性を維持しながら、強度も向上
  • 代表的な合金:5083(LNG)、2219(ロケット)
  • 注意点:溶接部の特性、熱膨張係数の違い、材料証明の確認

「冷えても割れない」という特性

アルミニウムの低温靭性は、LNGの安定供給から宇宙開発まで、現代社会のインフラを支えています。

なぜ低温でも割れないのか。

答えは、原子の並び方(FCC構造)という、金属の本質的な性質にあります。

この特性があるからこそ、アルミニウムは極限環境で選ばれる材料となっているのです。


参考文献・データ出典

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