磁石につく金属、つかない金属
冷蔵庫にマグネットを貼る。
クリップが磁石に吸い寄せられる。
これは「鉄」だからです。
では、アルミ缶や1円玉はどうか。
磁石につかない。
鉄とアルミニウム、同じ金属なのに、なぜ違うのか。
答えは「電子の向き」にある
金属が磁石に引きつけられるかどうかは、原子の中の電子の振る舞いで決まります。
鉄の場合(強磁性体)
鉄の原子には、「スピン」という小さな磁石のような性質を持つ電子があります。
鉄では、この電子スピンが同じ方向に揃いやすい。
外部から磁力がかかると、さらに整列し、鉄自体が磁石のように振る舞う。
だから、磁石に引きつけられる。
これを「強磁性体」と呼びます。
アルミニウムの場合(常磁性体)
アルミニウムでは、電子スピンが互いに打ち消し合うように配置されています。
外部から磁力がかかっても、全体としての磁気的な偏りが極めて小さい。
ほとんど磁化されない。
これを「常磁性体」と呼びます。
| 分類 | 代表的な金属 | 磁石への反応 |
|---|---|---|
| 強磁性体 | 鉄、ニッケル、コバルト | 強く引きつけられる |
| 常磁性体 | アルミニウム、チタン | ほぼ反応しない |
| 反磁性体 | 銅、金、銀 | わずかに反発する |
アルミニウムは「非磁性」と呼ばれますが、正確には「常磁性体」。
磁化率は 0.61×10⁻⁶ cm³/g と、ほぼゼロに近い値です。
■ コラム:空港の金属探知機は、なぜアルミに反応するのか
アルミニウムは磁石につかない。 なのに、空港の金属探知機はアルミ製品に反応します。
金属探知機は、磁性ではなく導電性を検知しているからです。
探知機は交流磁場を発生させ、その中を金属が通ると、 金属内に「渦電流」が発生する。
この渦電流が作る二次的な磁場を検知している。アルミニウムは導電性が高い(銅の約60%)ので、 渦電流が発生しやすく、探知機に反応する。
「磁石につかない」と「金属探知機に反応しない」は別の話。
この違いを理解していないと、「非磁性だから大丈夫」と思って 磁場の中にアルミを持ち込み、予想外の問題を起こすことがあります。
非磁性が求められる場面
「磁石につかない」という性質は、特定の環境で決定的な価値を持ちます。
MRI(磁気共鳴画像装置)
MRIは、強力な磁場(1.5〜3テスラ、地磁気の数万倍)を使って体内を撮影します。
装置の周囲に磁性体があると、磁場が乱れ、画像がぼやける。
最悪の場合、磁性体が磁石に引き寄せられて飛んでいく。
MRI室に「金属持ち込み禁止」の警告があるのは、このためです。
しかし、装置自体の構造材には金属が必要。
ここで、非磁性で、軽量で、強度があるアルミニウム合金が選ばれます。
検査台の駆動部、ガントリー(トンネル状の構造)の一部など、 磁場を乱さない金属として使われています。
リニアモーターカー
超電導磁石で浮上・推進するリニアモーターカー。
車体自体が磁力の影響を受けると、制御が難しくなる。
軽量かつ非磁性のアルミニウム合金が、車体の骨格や内外装材に使われ、 安定走行を支えています。
半導体製造装置
半導体の製造では、プラズマや電子ビーム、電磁石を使う工程があります。
わずかな磁場の乱れが、ナノメートル単位の加工精度に影響する。
チャンバー(反応室)、ウエハー搬送アーム、真空装置の部品など、 磁気干渉を避けるためにアルミニウム合金が使われています。
合金にしても非磁性は維持される
「純アルミは非磁性でも、合金にすると磁性を帯びるのでは?」
確かに、鉄やニッケル、コバルトを大量に添加すれば、磁性を帯びることはあります。
しかし、一般的なアルミニウム合金(2000系、5000系、6000系、7000系など)では、 添加元素の種類と量が調整されており、非磁性はほぼ維持されます。
| 合金系 | 主な添加元素 | 非磁性 |
|---|---|---|
| 1000系(純アルミ) | — | ◎ |
| 2000系 | 銅(Cu) | ○ |
| 5000系 | マグネシウム(Mg) | ◎ |
| 6000系 | Mg + Si | ◎ |
| 7000系 | 亜鉛(Zn) | ○ |
強度、耐食性、加工性といった特性を調整しながら、 非磁性という性質も維持できる。
これがアルミニウム合金の設計自由度です。
■ コラム:ステンレスは磁石につく?つかない?
「ステンレスは磁石につかない」と思っている人は多い。
しかし、これは種類による。
オーステナイト系ステンレス(SUS304など)は、非磁性。
フェライト系・マルテンサイト系ステンレス(SUS430、SUS410など)は、磁性あり。同じ「ステンレス」でも、結晶構造が違えば磁性も違う。
MRIの周辺機器を選ぶとき、「ステンレスだから大丈夫」と思って 磁性のあるステンレスを使ってしまう事故が、実際に起きています。
非磁性が必要な場面では、材料の種類を正確に確認することが重要。
アルミニウム合金は、どの系統でも基本的に非磁性なので、 この点では「間違いにくい」材料と言えます。
注意点:渦電流の発生
アルミニウムは非磁性ですが、導電性が高いという特性があります。
交流磁場の中にアルミニウムを置くと、渦電流が発生します。
渦電流とは
変動する磁場の中に導体があると、電磁誘導によって導体内に電流が流れる。
この電流が渦のように流れるため「渦電流」と呼ばれます。
渦電流の影響
- 発熱:渦電流によるジュール熱で、材料が温まる
- エネルギー損失:磁気エネルギーが熱に変換される
- 制動力:渦電流が磁場と相互作用し、動きを妨げる力が発生
設計上の考慮
高周波の交流磁場が発生する環境(変圧器、誘導加熱装置など)では、 アルミニウムの渦電流発生を考慮する必要があります。
「非磁性だから磁場の中で使っても問題ない」とは限らない。
導電性と非磁性は別の特性であることを理解しておくべきです。
まとめ
- アルミニウムは磁石につかない:電子スピンが打ち消し合う「常磁性体」
- 鉄との違い:鉄は電子スピンが揃う「強磁性体」
- 非磁性が活きる場面:MRI、リニア、半導体製造装置
- 合金でも非磁性は維持:一般的なアルミ合金はすべて非磁性
- 注意点:導電性が高いため、交流磁場中では渦電流が発生する
「磁石につかない」という地味な特性
アルミニウムの非磁性は、日常生活では意識されることがほとんどありません。
しかし、MRIの正確な診断、リニアモーターカーの安定走行、半導体の微細加工
—— これらの先端技術は、「磁石につかない」という地味な特性に支えられています。
派手ではないが、なくてはならない。
アルミニウムの非磁性は、そういう特性です。
参考文献・データ出典
- 一般社団法人 日本アルミニウム協会「アルミニウム材料の諸特性データベース」https://www.aluminum.or.jp/materialdb/
