アルミニウムの疲労特性 — 繰り返し荷重との賢い向き合い方

航空機は、アルミニウム合金の構造体で空を飛んでいます。

離陸と着陸のたびに機体には繰り返しの力がかかりますが、50年以上にわたって安全に運用されている機体も珍しくありません。新幹線、トラックの荷台、橋梁——アルミニウム構造物は世界中で、長期間にわたる繰り返し荷重に耐え続けています。

ただし、それには理由があります。アルミニウムの疲労特性を正しく理解し、それに合った設計がなされているからです。

強度の記事では、5つの強度指標のひとつとして「疲れ強さ」に触れ、「見過ごせない特性」と予告しました。本記事では、その疲労特性の中身を掘り下げます。

「疲労限度がない」と聞くと不安に思うかもしれません。しかし、それは「弱い」ということではありません。鉄とは異なる設計の考え方が必要だ、ということです。その違いを理解すれば、アルミニウムの疲労特性は十分にコントロールできます。


目次

1. 鉄とアルミ——設計思想の違い

繰り返し荷重に対する材料の強さを調べるとき、「S-N曲線」というグラフを使います。縦軸に応力(かかる力の大きさ)、横軸に破断までの繰り返し回数をとったものです。

鉄鋼材料のS-N曲線には、ある特徴があります。繰り返し回数が10⁶〜10⁷回あたりで、曲線が水平になるのです。この水平になった応力値を「疲労限度」と呼びます。つまり、この値以下の力であれば、何回繰り返しても壊れないという安全ラインが存在します。

一方、アルミニウム合金のS-N曲線は、水平にならずに下がり続けます。繰り返し回数が増えるほど、耐えられる力は少しずつ小さくなっていきます。

この違いが意味するのは、設計の考え方の根本的な違いです。

鉄鋼の場合は「この力以下なら、永久に大丈夫」と言えます。しかしアルミニウムの場合は「この使い方で、何回まで大丈夫」という考え方になります。

「永久に安全な力」が存在しないと聞くと、頼りなく感じるかもしれません。しかし、実際の製品の多くは使用回数や使用期間が想定できます。その想定に合わせて設計すれば、アルミニウム構造物は十分な安全性を確保できます。航空機が50年以上安全に飛べているのは、まさにこの考え方の実践です。


2. なぜアルミには疲労限度がないのか

鉄とアルミでこのような違いが生まれる原因は、材料内部での亀裂の振る舞いにあります。

鉄鋼材料では、繰り返し荷重によって微小な亀裂が発生しても、ある条件下ではその亀裂の進展が止まることがあります。亀裂の先端で変形が起き、それ以上広がらなくなるのです。これが疲労限度として現れます。

アルミニウム合金では、一度発生した亀裂は止まらず、少しずつ進展し続けます。そのため、繰り返し回数が増えれば、いずれは破断に至る可能性がある。これが、S-N曲線が下がり続ける理由です。

ただし、すべてのアルミ合金が同じ振る舞いをするわけではありません。

たとえば5000系(Al-Mg系)合金は、10⁷回付近でS-N曲線がほぼ水平になる傾向があり、疲労限度に近い挙動を示します。合金の種類によって疲労特性に差があるということは、合金選定が設計の重要な要素であることを意味します。


3. 長期安全を支える設計の知恵

アルミニウムの疲労特性は、適切な設計によってコントロールできます。ここでは、実際に使われている代表的な設計の考え方を紹介します。

3-1. 応力集中を避ける形状設計

疲労破壊は、力が一点に集中する場所から始まります。角の尖った部分、急激な断面変化、穴の縁——こうした箇所に力が集中し、亀裂の起点になります。

これは歴史が教えてくれた教訓でもあります。

1954年のコメット事故は、アルミ合金製の機体でした。当時の窓は四角い形状で、その角に力が集中し、繰り返しの飛行で亀裂が広がりました。この教訓から、現在の航空機の窓はすべて角が丸くなっています。

押出材の設計でも同じことが言えます。角にはR(丸み)をつける、肉厚の変化は緩やかにする、リブの付け根にはフィレットを設ける。強度の記事で解説した「7つの視点」は、そのまま疲労対策にもなります。

形状設計の段階で応力集中を減らすことが、疲労寿命を延ばす最も基本的で効果的な方法です。

3-2. 合金の選定

前述のとおり、合金の種類によって疲労特性は異なります。用途に応じた合金選定が、疲労設計の重要な要素です。

5000系(Al-Mg系) は、疲労限度に近い挙動を示すことが知られています。耐食性も良好で、溶接構造物や海洋環境での使用に適しています。繰り返し荷重がかかる溶接構造では、有力な選択肢です。

6000系(Al-Mg-Si系) は、押出加工性に優れ、建築や産業機械など幅広い用途で使われる汎用的な合金です。T5やT6処理で強度を高めることができます。疲労設計では、使用条件に合わせた寿命評価が必要です。

7000系(Al-Zn-Mg系) は、アルミ合金の中で最も高い強度を持ちます。ただし、切欠き感受性が高く、応力集中に対して敏感です。形状設計で応力集中を徹底的に排除することが、この合金を使いこなす条件です。

合金選定は、強度だけでなく、加工性、耐食性、コストとのバランスで判断します。私たち押出メーカーに相談いただければ、用途や使用環境に応じた合金のご提案が可能です。

3-3. ダメージトレランス設計という考え方

「永久に大丈夫」ではなく、「この使い方なら、これだけの期間、安全に使える」。

これがダメージトレランス設計の基本的な考え方です。

具体的には、次のような手順で安全性を確保します。

  • 使用条件の想定: 繰り返し荷重の大きさ、頻度、使用年数から、想定される総繰り返し回数を算出する
  • 安全率の設定: S-N曲線のデータに安全率を掛け、許容応力を決定する
  • 検査計画の策定: 亀裂が検出可能なサイズに達する前に点検するスケジュールを設計する
  • 計画的な交換: 疲労寿命に達する前に部品を交換する

航空機が50年以上安全に飛べているのは、この設計思想が徹底されているからです。定期的な検査で亀裂を早期に発見し、必要に応じて部品を交換する。「壊れないようにする」だけでなく、「壊れる前に見つけて対処する」という考え方です。

産業用の押出材も同じです。繰り返し荷重がかかる部品であれば、使用条件に基づいた寿命評価と検査計画を設計段階で組み込むことが大切です。

3-4. 表面処理——過信は禁物

鉄鋼材料の場合、ショットピーニング(表面に小さな鋼球を打ちつける処理)によって表面に圧縮残留応力が生まれ、疲労強度が大幅に向上することが知られています。

アルミニウムでも同様の効果は得られますが、鉄鋼ほど劇的ではありません。アルミは鉄鋼に比べて軟らかいため、圧縮残留応力が使用中に緩和されやすい傾向があります。また、条件によっては表面に微細な損傷を与えてしまい、逆効果になる場合もあります。

表面処理は疲労対策の一要素ではありますが、過信せず、形状設計や合金選定と組み合わせて総合的に判断することが重要です。

こうした情報を正直にお伝えするのは、「これさえやれば大丈夫」という誤解を防ぐためです。正確な理解が、正しい設計につながります。


4. 腐食疲労——環境が変えるルール

ここまでの話は、通常の大気環境を前提としたものです。しかし、腐食環境下では事情が変わります。

腐食環境(塩水、化学薬品、高湿度など)では、アルミニウムの疲労強度は大幅に低下します。腐食による表面の微細なピット(孔食)が亀裂の起点となり、疲労寿命を著しく短くするためです。

実は、鉄鋼材料も腐食環境下では疲労限度が消失します。つまり、「疲労限度がある」という鉄の優位性は、腐食環境ではなくなるのです。

海洋構造物、化学プラント、屋外で水にさらされる構造物——こうした環境でアルミニウムを使用する場合は、合金選定と防食処理がとくに重要になります。5000系合金の耐食性の高さや、アルマイト処理などの表面保護は、疲労寿命の確保にも直結します。

使用環境が厳しいほど、設計段階での慎重な検討が求められます。


まとめ

「疲労限度がない」という特性は、アルミニウムが弱い材料であることを意味しません。

鉄鋼とは異なる設計の考え方が必要だ、ということです。

使用条件を想定し、それに合った材料を選び、形状を工夫し、検査計画を立てる。「この使い方で、これだけの期間、安全に使える」と根拠を持って言える設計をする。これが、アルミニウムの疲労特性との賢い向き合い方です。

航空機、新幹線、トラック、橋梁。50年以上にわたって繰り返し荷重に耐え続けるアルミニウム構造物が世界中にあるのは、この設計思想が確立されているからです。

私たち押出メーカーは、形状の自由度が高い押出材だからこそ、設計段階から疲労対策を形に反映することができます。応力集中を減らす断面形状、用途に合った合金の選定、肉厚や形状の最適化——こうした検討を、設計の早い段階からご一緒できればと考えています。

繰り返し荷重がかかる用途でアルミ押出材をご検討の際は、お気軽にご相談ください。

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