そもそも「電磁波シールド」とは何か
スマートフォン、パソコン、車のエンジン制御、医療機器——私たちの周りは電子機器であふれています。
これらの機器は、動作するときに「電磁波」を発しています。目に見えない電気と磁気の波。Wi-FiやBluetoothの通信も電磁波ですし、モーターやインバーターからも電磁波が出ています。
問題は、この電磁波が他の機器に悪影響を与えることがある点です。
例えば——
- スマートフォンを近づけるとスピーカーから「ジジジ」とノイズが出る
- 工場でインバーターを動かすと、近くのセンサーが誤作動する
- 医療機器の近くで携帯電話を使うと、測定値が狂う
これが**電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)**と呼ばれる現象です。
電磁波シールドとは、この電磁波を「遮る」「閉じ込める」技術のこと。
金属の箱で電子機器を囲えば、外からの電磁波の侵入を防ぎ、中から発する電磁波の漏れも抑えられます。これがシールドの基本的な考え方です。
EMC——「迷惑をかけない」「迷惑を受けない」の両立
電子機器の設計では、**EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁環境両立性)**という考え方が重要です。
EMCには2つの側面があります。
| 用語 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| EMI(エミッション) | 機器が発する電磁波が、他に悪影響を与えないこと | 自分のノイズで隣の機器を壊さない |
| EMS(イミュニティ) | 外部からの電磁波に対して、誤作動しないこと | 他のノイズで自分が壊れない |
つまり、「迷惑をかけない」と「迷惑を受けない」の両立。
電子機器は、出荷前にこのEMC規格をクリアする必要があります。規格に通らなければ、製品として販売できません。
電磁波シールドは、このEMC対策の中核となる技術です。
電磁波シールドの原理——なぜ金属で遮れるのか
金属が電磁波を遮るメカニズムは、主に3つあります。
1. 反射
電磁波が導電性の高い金属に当たると、その大部分が跳ね返されます。
金属の中には「自由電子」がたくさん存在し、電磁波のエネルギーを受けると電子が振動して、電磁波を反射します。
導電率が高い金属ほど、反射効果が大きい。だから銅やアルミがシールドに使われます。
2. 吸収
反射しきれなかった電磁波は、金属の内部に入り込みます。
しかし、金属内部を進むにつれて、電磁波のエネルギーは熱に変換されて減衰していきます。
この減衰の度合いを示すのが「表皮深さ(skin depth)」という指標です。
3. 多重反射
金属内部で電磁波が何度も反射を繰り返し、そのたびにエネルギーを失います。
薄い材料では効果が限定的ですが、厚みがあれば有効です。
「表皮深さ」——アルミが高周波シールドに強い理由
電磁波が金属に入ると、表面近くに電流が集中し、内部にはほとんど届きません。この電流が集中する深さを「表皮深さ」と呼びます。
表皮深さは、周波数が高くなるほど浅くなります。つまり、高周波の電磁波は金属の表面だけで止められる。
以下は、東陽EMCエンジニアリングの技術資料に基づくデータです。
表皮深さの比較(周波数別)
| 周波数 | アルミニウム | 銅 | 鉄 |
|---|---|---|---|
| 50Hz(商用電源) | 約12mm | 約9mm | 約1.6mm |
| 1MHz | 約84μm | 約66μm | 約0.5mm |
| 30MHz | 約15μm | 約12μm | 約28μm |
| 100MHz | 約8μm | 約7μm | 約15μm |
出典:東陽EMCエンジニアリング「電磁シールド」技術資料
ここから分かること
- 高周波(MHz以上)では、アルミも銅も非常に薄い層でシールドできる
- 低周波(50Hz付近)では、鉄の方が表皮深さが小さい=鉄の方がシールドに有利
なぜ鉄は低周波で有利なのか?
鉄は「強磁性体」で、磁気を引き寄せる性質があるからです。低周波の磁界シールドには、鉄やパーマロイなどの磁性材料が必要になります。
**アルミと銅は「非磁性体」**なので、磁界シールドは苦手。しかし、高周波の電界シールドには十分な性能を発揮します。
【コラム】電子レンジの窓——なぜ中が見えるのに電磁波は漏れないのか
電子レンジのドアには、金属メッシュが入っています。
中で温めている食品が見える。でも、電磁波(マイクロ波)は漏れてこない。
なぜでしょうか?
答えは「波長」にあります。
電子レンジが使うマイクロ波の周波数は2.45GHz、波長は約12cm。
一方、ドアのメッシュの穴は数mm程度。波長よりはるかに小さい。
電磁波は、自分の波長より小さい穴を通り抜けにくい性質があります。だから、メッシュの穴は光(波長:数百nm)を通しても、マイクロ波(波長:12cm)は通さない。
これが「穴があってもシールドできる」理由です。
逆に言えば、周波数が高くなるほど波長は短くなり、小さな隙間からも漏れやすくなる。高周波機器のシールド設計で「隙間管理」が重要になるのは、このためです。
なぜアルミニウムがシールド材に選ばれるのか
シールド材には銅、鉄、アルミなど様々な選択肢があります。その中でアルミが選ばれる理由を整理します。
1. 高い電気伝導性
アルミニウムの電気伝導率は、銅の約57〜60%(IACS基準)。鉄やステンレスよりはるかに高い値です。
出典:一般社団法人 日本アルミニウム協会「アルミニウムとは」
| 材料 | 電気伝導率(IACS) | シールド効果(高周波) |
|---|---|---|
| 銅 | 100% | ◎ |
| アルミニウム | 約57% | ◎ |
| 鉄 | 約12% | ○ |
| ステンレス | 約2〜3% | △ |
導電率が高いほど、電磁波の反射効果が大きくなります。
2. 圧倒的な軽さ
アルミの比重は約2.7。銅(8.9)の約1/3、鉄(7.8)の約1/3です。
同じシールド効果を得るなら、アルミは銅よりはるかに軽く作れます。
携帯機器、車載機器、航空宇宙——重量制約が厳しい分野では、この軽さが決定的なアドバンテージになります。
3. 加工のしやすさ
アルミは押出成形、板金加工、ダイカストなど、多様な加工法に対応します。
複雑な形状の筐体も一体成形で作れる。これがシールド設計において重要な意味を持ちます(後述)。
4. 放熱性との両立
電子機器は電磁波だけでなく、熱の問題も抱えています。
アルミは熱伝導率が高い(約220W/m·K)。シールド筐体が同時にヒートシンクとして機能できる。
出典:一般社団法人 日本アルミニウム協会「アルミニウムとは」
「電磁波を遮り、熱を逃がす」——この両立が、アルミの大きな強みです。
5. コストパフォーマンス
銅に比べて材料費が安く、加工費も抑えやすい。軽量なため輸送コストも下がります。
シールド材料の比較まとめ
| 評価項目 | アルミ | 銅 | 鉄・鋼 | ステンレス |
|---|---|---|---|---|
| 高周波シールド(電界) | ◎ | ◎ | ○ | △ |
| 低周波シールド(磁界) | △ | △ | ◎ | ○ |
| 重量 | ◎(軽い) | △(重い) | △(重い) | △(重い) |
| 加工性 | ◎ | ○ | ○ | △ |
| 放熱性 | ◎ | ◎ | △ | △ |
| コスト | ○ | △(高い) | ◎(安い) | ○ |
| 耐食性 | ○ | △ | △ | ◎ |
使い分けの基本
- 高周波ノイズ(MHz〜GHz)が問題 → アルミまたは銅
- 低周波の磁界ノイズ(kHz以下)が問題 → 鉄、パーマロイなどの磁性材料
- 両方を対策したい → アルミ+磁性材料の組み合わせ
シールド設計の急所——「隙間」が敵
ここが最も重要なポイントです。
いくら良い材料を使っても、隙間があれば電磁波は侵入します。
電磁波は、波長より小さい隙間からも入り込みます。特に高周波になるほど波長が短くなり、わずかな隙間が問題になります。
電磁波が侵入しやすい箇所
- 筐体の蓋と本体の接合部
- ケーブルの引き込み口
- 放熱用の通気口
- ネジ穴、表示窓
対策の基本
| 箇所 | 対策 |
|---|---|
| 接合部 | 導電性ガスケット、EMIシールドテープ |
| ケーブル引き込み | シールドコネクタ、フェライトコア |
| 通気口 | ハニカムフィルター、導電性メッシュ |
| 全体 | 確実な接地(グランド) |
アルミ押出形材がシールドに効く理由
ここで、押出成形がシールド設計にどう貢献するかを説明します。
1. 一体成形で「隙間」を減らせる
電磁波シールドの敵は「隙間」だと説明しました。
押出成形なら、複雑な断面を継ぎ目なく一体で作れます。
例えば——
- 蓋と本体を嵌合構造にして、隙間を最小化
- ケーブル引き込み用の溝を一体成形
- ガスケット用の溝をあらかじめ設計に組み込む
板金で作ると、曲げて、溶接して、隙間をシールして……と工程が増え、そのたびに「電磁波の侵入口」が生まれます。
押出なら、最初から「隙間の少ない設計」が可能です。
2. 放熱フィンとシールド筐体を一体化
電子機器は「熱」と「電磁波」の両方と戦っています。
押出成形なら——
- 外面に放熱フィンを配置
- 内面は平滑にして電子基板を収納
- 全体がシールド筐体として機能
1つの部品で「シールド」と「放熱」を同時に解決できます。
これを板金+後付けヒートシンクで作ると、部品点数が増え、コストも上がり、接合部(=隙間)も増えます。
3. 長尺でも均一な断面
押出成形の特徴は、「金太郎飴」のように、どこを切っても同じ断面が続くこと。
サーバーラック用のレール、産業機器の長いフレーム、鉄道車両の電装品ケース——長尺のシールド筐体も、均一な品質で作れます。
用途別・アルミシールドの活用例
電子機器の筐体
パソコン、サーバー、通信機器の筐体にアルミが多用されています。
外部ノイズを遮断し、内部からのノイズ漏れも防ぐ。同時に、CPU等の発熱を効率よく放散。
車載電子機器
自動車のECU(電子制御ユニット)、インバーター、センサー類のケース。
車内はノイズ源だらけ。エンジン点火系、モーター、カーナビ、スマートフォン——互いに干渉しないよう、確実なシールドが必要です。
EVやHVでは、高電圧・大電流を扱うパワーエレクトロニクスの電磁ノイズ対策がさらに重要になっています。
産業機器・FA機器
ロボットコントローラー、PLC、サーボアンプなど。
工場内はインバーターやモーターからのノイズが多い環境。誤作動は生産停止や安全問題に直結します。
医療機器
MRI周辺機器、超音波診断装置、生体センサーなど。
微弱な信号を扱う医療機器は、電磁ノイズに極めて敏感。アルミの非磁性も、MRI環境では重要な特性です。
まとめ——「遮る」「逃がす」「軽くする」を同時に
電磁波シールドは、現代の電子機器設計において避けて通れない要素です。
アルミニウムは、その高い導電性により高周波の電磁波を効果的に反射し、軽量性と加工しやすさ、放熱性の良さから、シールド材として非常にバランスの取れた選択肢です。
アルミシールドの強み
- 高周波の電界シールドに有効(表皮深さのデータが根拠)
- 銅の1/3の重さで、同等のシールド効果
- 押出成形で放熱と一体化した設計が可能
- 一体成形により「隙間」を減らし、シールド効果を高められる
注意点
- 低周波の磁界シールドには鉄などの強磁性体が必要
- 隙間や接地の管理がシールド効果を左右する
- 用途に応じた材料選定と設計が重要
「電磁波を遮り、熱を逃がし、軽く作る」——この三つを同時に求めるなら、アルミニウム、特に押出形材は有力な選択肢です。
参考資料
- 一般社団法人 日本アルミニウム協会「アルミニウムとは」
- 東陽EMCエンジニアリング「電磁シールド」技術資料
- 村田製作所「ノイズ対策基礎講座」
関連ページ
- → アルミニウムの特性と用途:15の主要特性・4つの注意点
- → アルミニウムの電気伝導性
- → アルミニウムの熱伝導性
