アルミ缶が冷たい理由
冷蔵庫から取り出したアルミ缶を手に取る。
「冷たい」
当たり前の感覚ですが、ここにアルミニウムの本質があります。
同じ冷蔵庫に入っていたペットボトルと比べてみてください。 アルミ缶の方が、明らかに冷たく感じる。
でも、温度計で測れば、どちらも同じ温度のはず。
なぜ、アルミ缶の方が冷たく感じるのか。
答えは「熱伝導率」です。

熱伝導率とは何か
熱伝導率とは、熱がどれだけ速く材料の中を移動できるかを示す数値です。
単位は「W/m・K(ワット毎メートル毎ケルビン)」。
数字が大きいほど、熱が速く伝わる。
アルミニウムの熱伝導率は、約237 W/m・K。
この数字だけでは実感が湧かないかもしれません。 他の素材と比べてみましょう。
| 素材 | 熱伝導率(W/m・K) |
|---|---|
| 銀 | 429 |
| 銅 | 398 |
| アルミニウム | 237 |
| 鉄 | 80 |
| ステンレス | 15 |
| ガラス | 1 |
| プラスチック(PET) | 0.2 |
| 空気 | 0.026 |
アルミニウムは、鉄の約3倍、ステンレスの約16倍の速さで熱を伝える。
銀や銅には負けますが、重さと価格を考えると、実用的な素材としてはアルミニウムが最もバランスが良い。
冷たく「感じる」メカニズム
話を戻しましょう。
なぜ、同じ温度なのに、アルミ缶の方が冷たく感じるのか。
答え:熱の移動が速いから。
あなたの手は、約36℃。 冷蔵庫から出したばかりの缶は、約5℃。
手が缶に触れると、手から缶へ熱が移動します。
アルミニウムは熱伝導率が高いので、手から奪った熱を素早く缶全体に分散させる。 だから、触れた部分がすぐに冷たくなる。
一方、プラスチックは熱伝導率が低い。 手から奪った熱が、触れた部分に留まる。 だから、すぐに「温まった」ように感じる。
「冷たい」のは温度ではなく、熱の移動速度への感覚なのです。
熱のスーパーハイウェイ
熱伝導率を道路に例えると、こうなります。
- アルミニウム:片側4車線の高速道路。熱が渋滞なくスイスイ流れる。
- 鉄:片側2車線の国道。流れるが、少し遅い。
- ステンレス:細い農道。熱がなかなか進まない。
- プラスチック:砂利道。熱がほとんど動けない。
アルミニウムは、熱のスーパーハイウェイです。
この特性をどう使うかで、製品の価値が決まります。
用するかで、まったく新しい価値が生まれる可能性があるのです。

熱伝導率が高い (例:アルミニウム)
→ 熱をすばやく分散させ、ムラなく伝える

熱伝導率が低い (例:発泡スチロール)
→ 熱がこもりやすく、じわじわとしか伝わらない
熱伝導率を活かす3つの方向
アルミニウムの熱伝導率を製品設計に活かすとき、大きく3つの方向があります。
1. 熱を「逃がす」
発生した熱を、素早く外部に放出する。
代表例:ヒートシンク(放熱器)
パソコンのCPU、LEDライト、電気自動車のバッテリー—— これらは動作中に大量の熱を発生します。
この熱を効率よく逃がさないと、性能が落ちたり、寿命が縮んだり、最悪の場合は故障する。
アルミニウムのヒートシンクは、熱源から熱を素早く吸収し、フィン(放熱板)を通じて空気中に放出します。
熱を「逃がす」設計は、現代の電子機器に欠かせません。
2. 熱を「伝える」
熱を均一に、素早く、目的の場所に届ける。
代表例:調理器具
アルミ鍋やフライパンは、火から受けた熱を底面全体に素早く広げます。 だから、ムラなく加熱できる。
鉄のフライパンは、火が当たっている部分だけが熱くなりやすい。 ステンレス鍋は、さらに熱ムラが出やすい。
アルミニウムの「熱を均一に伝える」特性は、調理の品質を左右します。
3. 熱を「操る」
熱の流れを意図的にコントロールして、新しい機能を生み出す。
代表例:アイスクリームスプーン

アルミ製のアイスクリームスプーンをご存じですか?
持ち手を握ると、手の熱がスプーンの先端に伝わる。 その熱で、固いアイスクリームが溶けて、すくいやすくなる。
これは、アルミニウムの熱伝導率を「機能」に変換した例です。
熱を操ることで、これまでにない製品体験を生み出せる。
なぜアルミ鍋は焦げ付きやすいのか
「アルミ鍋は焦げ付きやすい」
そう感じたことはありませんか?
実は、これも熱伝導率が関係しています。
熱伝導が良すぎる問題
アルミニウムは熱をすぐに伝える。 火を止めても、余熱がすぐに全体に広がってしまう。
鉄鍋やステンレス鍋は、熱の移動が遅い。 だから、火を止めた後も「じわじわ」と余熱で調理が続く。
アルミ鍋は、火を止めたら本当に止まる。 だから、火加減のコントロールがシビアになる。
薄さの問題
アルミ鍋は軽くするために薄く作られることが多い。
薄いと、熱容量(蓄えられる熱の量)が小さい。 食材を入れた瞬間に温度が急激に下がる。
温度が下がると、食材がくっつきやすくなる。
焦げ付きやすいのは、アルミニウムの「欠点」ではなく、「特性」の裏側。
厚手のアルミ鍋を選ぶか、火加減を意識することで、この問題は軽減できます。
🍳 コラム:プロの厨房でアルミ鍋が愛される理由
家庭ではテフロン加工のフライパンが主流ですが、 プロの厨房では、今でもアルミ製の鍋やフライパンが使われています。
なぜか。
熱の反応が速いから。
火力を上げれば、すぐに温度が上がる。 火を弱めれば、すぐに温度が下がる。
この「レスポンスの良さ」が、繊細な火加減を必要とする料理で重宝される。
イタリアンのシェフがパスタを仕上げるとき、 フレンチのシェフがソースを煮詰めるとき、
彼らは、火と鍋の「対話」を楽しんでいる。
アルミニウムは、その対話に素早く応えてくれる素材なのです。
ヒートシンクの設計——押出形材の強み
熱を「逃がす」設計で最も重要なのが、表面積です。
熱は、空気との接触面から放出される。 表面積が大きいほど、放熱効率が上がる。
だから、ヒートシンクには「フィン」と呼ばれる薄い板がたくさん並んでいる。
押出成形なら、複雑な形状を一体で作れる
切削加工でフィンを作ると、材料の無駄が多く、コストがかかる。
しかし、押出成形なら、フィン付きの形状を最初から一体で作れます。
金型から押し出すだけで、複雑な断面が連続して出てくる。
- 材料の無駄が少ない
- 加工工程が減る
- 量産に向いている
私たちは、様々なヒートシンク形材を製造しています。
フィンの枚数、高さ、間隔、厚み—— これらを調整することで、放熱性能を最適化できる。
放熱性能を左右する要素
| 要素 | 放熱への影響 |
|---|---|
| フィンの枚数 | 多いほど表面積が増え、放熱効率が上がる |
| フィンの高さ | 高いほど表面積が増えるが、空気の流れに注意 |
| フィンの間隔 | 狭すぎると空気が流れにくくなる |
| フィンの厚み | 薄いほど表面積は増えるが、熱が根元から先端に伝わりにくくなる |
| ベースの厚み | 厚いほど熱を均一に広げられる |
最適なバランスは、用途によって異なります。
自然対流(ファンなし)なのか、強制対流(ファンあり)なのか。 発熱量はどれくらいか。取り付けスペースは。
これらの条件を踏まえて、形状を設計します。
🛸 コラム:宇宙では熱を逃がせない
地球上では、熱は3つの方法で移動します。
- 伝導:物質を通じて伝わる
- 対流:空気や水の流れで運ばれる
- 放射:電磁波として飛んでいく
ヒートシンクは、主に「対流」を利用しています。 フィンの表面に空気が触れ、熱を奪っていく。
しかし、宇宙には空気がない。
対流が使えない。 伝導も、接触している部分だけ。
宇宙ステーションや人工衛星では、放射で熱を逃がすしかない。
だから、宇宙機には巨大な「ラジエーター」が取り付けられている。
国際宇宙ステーション(ISS)を見たことがありますか? あの横に広がる白い板——あれがラジエーターです。
アルミニウム合金で作られたラジエーターが、 宇宙空間に向けて熱を放射している。
地球では当たり前の「空気に熱を逃がす」が、 宇宙では使えない。
熱伝導率の高さだけでは解決できない、宇宙ならではの課題です。
銀や銅ではなく、なぜアルミニウムなのか
熱伝導率だけを見れば、銀(429)や銅(398)の方が優れています。
では、なぜアルミニウムが選ばれるのか。
重さ
| 金属 | 密度(g/cm³) |
|---|---|
| アルミニウム | 2.7 |
| 銅 | 8.9 |
| 銀 | 10.5 |
| 鉄 | 7.9 |
アルミニウムは、銅の約1/3の重さ。
同じ体積なら、アルミニウムの方が圧倒的に軽い。
軽さが求められる製品——ノートパソコン、スマートフォン、自動車、航空機——では、この差が決定的です。
価格
銀は貴金属。産業用途には高すぎる。
銅もアルミニウムより高価。しかも重い。
同じ放熱性能を得るためのコストで比較すると、アルミニウムが最も経済的。
加工性
アルミニウムは、切削も、押出も、鋳造もしやすい。
銅は柔らかくて加工しやすいが、重い。 銀は論外。
性能・重量・コスト・加工性のバランスで、アルミニウムが選ばれる。
🪙 コラム:銅のヒートシンクが使われる場面
「アルミニウムが最適」と書きましたが、例外もあります。
超高性能が求められる場面では、銅が使われることがある。
例えば、ハイエンドのゲーミングPCやサーバー。
CPUやGPUの発熱量が極めて大きく、 わずかな放熱性能の差が、動作の安定性を左右する。
そういう場合、重くて高価でも、銅が選ばれる。
あるいは、ハイブリッド構造。
ヒートパイプ(熱を素早く移動させる管)に銅を使い、 フィン部分にはアルミニウムを使う。
それぞれの素材の強みを組み合わせた設計です。
「どちらが優れているか」ではなく、 「用途に合った素材を選ぶ」ことが大切です。
熱伝導率と電気伝導率の関係
実は、熱伝導率が高い金属は、電気伝導率も高い傾向があります。
| 金属 | 熱伝導率(W/m・K) | 電気伝導率(%IACS) |
|---|---|---|
| 銀 | 429 | 105 |
| 銅 | 398 | 100(基準) |
| アルミニウム | 237 | 61 |
| 鉄 | 80 | 17 |
これは偶然ではありません。
熱も電気も、金属の中では自由電子によって運ばれます。
自由電子が動きやすい金属は、熱も電気もよく伝える。
この関係を「ヴィーデマン・フランツの法則」と呼びます。
アルミニウムが電線や送電線にも使われる理由が、ここにあります。
銅ほどの伝導率はないが、軽くて安い。 送電線のように長距離になると、重量とコストの差が効いてくる。
まとめ
- 熱伝導率:熱がどれだけ速く材料の中を移動できるかを示す数値
- アルミニウムは237 W/m・K:鉄の約3倍、ステンレスの約16倍
- 「冷たく感じる」のは熱の移動が速いから:温度ではなく、熱伝導率への感覚
- 3つの活かし方:熱を「逃がす」「伝える」「操る」
- 押出形材の強み:複雑なフィン形状を一体成形できる
- 銅や銀より選ばれる理由:性能・重量・コスト・加工性のバランス
熱を味方につける
アルミニウムの熱伝導率は、単なる数値ではありません。
触ればわかる、体感できる特性です。
冷たいアルミ缶。 すぐに温まるアルミホイル。 熱を素早く逃がすヒートシンク。
この「熱の速さ」を理解し、設計に活かすことで、 製品の性能、品質、ユーザー体験が変わります。
私たちは、様々な形状のアルミ押出形材を製造しています。
ヒートシンク、放熱フレーム、熱交換器部品—— 熱伝導率を活かした形材設計のご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。
参考文献・データ出典
- 理科年表オフィシャルサイト(国立天文台編)https://official.rikanenpyo.jp/
- 一般社団法人 日本アルミニウム協会「アルミニウム材料の諸特性データベース:物理的性質」https://www.aluminum.or.jp/materialdb/3.html
