【低温靭性】アルミニウムは、なぜ極低温でも割れないのか

鉄は冷えると脆くなる

1912年、タイタニック号が沈没しました。

氷山に衝突したことは有名です。ただ、材料の側から見ると、別の事実が浮かびます。

沈没から84年後の1996年、北大西洋の海底から船体の鋼材が回収されました。分析の結果、この鋼は、冷たい海水の温度ですでに脆い領域に入っていたことが分かりました。

0℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーは、直角方向で4ジュール、圧延方向で24ジュール。延性脆性遷移温度——粘り強さを失う温度——は、20ジュールを基準として、圧延方向で32℃、直角方向で56℃でした。現代の一般構造用鋼(ASTM A36)は、-27℃です。

衝突時の海水温は、-2℃。

原因は、組成にあります。硫黄0.069%に対し、マンガンは0.47%。現代の鋼はマンガンと硫黄の比が15以上ですが、タイタニックは約6.8。硫黄が多く、マンガンが少なかった。

これを「低温脆性」と呼びます。

鉄だけではありません。体心立方格子という構造をもつ金属【鉄、クロム、モリブデン、タングステン】は、温度が下がると硬くなる代わりに、ガラスのように脆くなります。

しかし、アルミニウムは違います。

この記事は、アルミニウムの特性について、日本アルミニウム協会の資料、学術論文および規格をもとに構成しています。数値には測定条件があるため、設計にあたっては原典をご確認ください。


目次

アルミニウムは低温でも「粘り強い」

アルミニウムは、極低温でも靭性(粘り強さ)を維持します。

日本アルミニウム協会の資料は、こう書いています。アルミニウムは鉄鋼などと違って、液体窒素(-196℃)や液体酸素(-183℃)の極低温下でも脆性破壊がなく、靭性が大きいのが特長です。

-162℃のLNG(液化天然ガス)タンク。
-183℃の液体酸素。
-196℃の液体窒素。

これらの極限環境で、アルミニウム合金が選ばれる理由がここにあります。

低温でも割れない性質を「低温靭性」と呼びます。


なぜアルミは低温でも粘り強いのか

答えは、原子の並び方にあります。

転位とは何か

金属の原子は、規則的なパターンで並んでいます。
これを「結晶構造」と呼びます。

ただし、完全に整った結晶ではありません。原子の並びには、線状のズレが存在します。
これを「転位」と呼びます。

金属が変形するのは、この転位が移動するからです。転位が動きやすい材料は、しなやかに変形する。転位が動けない材料は、変形せずに割れる。

粘り強さとは、転位の動きやすさのことです。

すべり面の数では、説明できない

アルミニウムの結晶構造は「面心立方格子(FCC)」。鉄(常温)は「体心立方格子(BCC)」です。

ここで、よくある誤解があります。

「FCCはすべり面が多いから、転位が動きやすい」——これは正しくありません。

すべり系の数は、FCCが12。BCCは48です。BCCのほうが多い。

塑性変形には5つの独立したすべり系が必要とされます。数だけを見れば、BCCのほうが変形しやすいはずです。しかし、実際は逆になります。

理由は、別のところにあります。

転位が動くのに、熱の助けが要るかどうか

転位が動くとき、結晶格子そのものが抵抗を生みます。
これを「パイエルス応力」と呼びます。

この値が、FCCとBCCで桁違いに違います。

FCCの転位は、刃状・らせんとも、剛性率の10⁻⁵〜10⁻⁴倍
BCCのらせん転位は、約10⁻²倍。100倍以上の開きがあります。

理由は、転位の芯の形にあります。

FCCの{111}面は、原子が最も密に並んだ面です。
転位はこの面に沿って広がり、平たい形をとる。動かすのに、大きな力は要りません。

BCCのらせん転位は、平面に収まりません。三次元的に広がった芯をつくります。この形は動きにくい。

そして、ここが決定的です。

絶対零度では、転位はパイエルス応力を超える力がなければ動きません。

温度が上がると、話が変わります。熱エネルギーが「キンク対」と呼ばれる部分的なズレを生み、それが横に広がることで、転位が一歩ずつ前進する。パイエルス応力より低い力でも、動けるようになります。

BCCの塑性変形は、融点の0.15倍以下の温度域で、この機構に支配されます。熱の助けを借りて、ようやく動いている。

だから、冷やすと止まります。助けが消えるからです。らせん転位が凍りつき、変形できなくなり、割れる。

これが低温脆性のメカニズムです。

一方、FCCのパイエルス応力は、もともと桁違いに小さい。

越えるべき障壁が小さければ、熱の助けを借りる必要もありません。

だから、冷やしても動けます。アルミニウムに延性脆性遷移がないのは、このためです。

結晶構造代表的な金属低温での特性
面心立方格子(FCC)アルミニウム、銅、ニッケル、オーステナイト系ステンレス低温でも靭性を維持
体心立方格子(BCC)鉄(常温)、クロム、モリブデン、タングステン低温で脆くなる

すべり面の数ではありません。転位が動くのに、熱の助けを必要とするかどうか。 そこが分かれ目です。


■ コラム:岸壁で折れた船

低温脆性を世界に知らしめたのは、タイタニックではありませんでした。

第二次世界大戦中、アメリカは2,700隻を超える「Liberty船」を建造しました。1941年から1946年までの5年間です。この船は、当時としては画期的でした。リベットではなく、全溶接で組み立てられていたのです。

やがて、船体に亀裂が入り始めます。

戦時中に確認された重大な脆性破壊は、約1,500件。そして、3隻のLiberty船が、予告なく真っ二つに折れました。 1943年11月24日には、SS John P. Gainesが沈没し、10名が亡くなっています。

当初、疑いは造船所に向けられました。急造で、熟練工が足りず、溶接技術も新しかった。

ケンブリッジ大学のコンスタンス・ティッパーが、この謎を解きます。

彼女が示したのは、亀裂は溶接部から始まっていないという事実でした。原因は、鋼材そのもの。ある温度を境に、鋼は延性から脆性へ変わる。北大西洋の海水温は、その温度を下回っていました。

同じ鋼材でも、リベット接合の船では、同様の破壊は起きていません。リベットの継ぎ目が、亀裂の進展を止めていたと考えられています。

タイタニックはリベット接合でした。全溶接にしたことで、船が一枚の金属になった。亀裂は、どこまでも走れるようになったのです。

そして、決定的な事実があります。

タンカーSS Schenectadyは、岸壁に係留された状態で折れました。

氷山も、嵐もない。荷重も、衝撃もない。ただ、冷えていただけです。

ティッパーは、延性脆性遷移温度を測る試験方法を確立しました。「ティッパー試験」は、いまも使われています。1962年には、この一連の調査を『The Brittle Fracture Story』にまとめています。

破壊の起点の多くは、甲板の四角いハッチの隅でした。角に応力が集中する。

材料と、形状と、温度。この三つが揃ったとき、金属はいつの間にか限界がきて割れます。


低温では、どのアルミも脆くならない

ここで、重要な点があります。

面心立方構造は、アルミニウム合金すべてに共通します。

純アルミも、3000系も、6000系も、7000系も。すべて面心立方です。すべて、低温で脆性破壊しません。

つまり、低温靭性は、合金を選ぶ理由になりません。 アルミニウムを選んだ時点で、すでに備わっています。

では、なぜ低温用途に特定の合金が指定されるのでしょうか。


では、なぜ5083と2219なのか

日本アルミニウム協会の合金表で、低温用タンクが用途として明記されているのは、この二つです。

5083(Al-Mg系)

溶接構造用合金。実用非熱処理合金の中で最も強度の高い耐食合金。溶接構造に適し、耐海水性、低温特性もよい。用途は、船舶、車両、低温用タンク、圧力容器。

2219(Al-Cu系)

強度が高く、低温および高温特性が優れ、溶接性も優れる。ただし耐食性は劣る。用途は、低温用タンク、航空宇宙機器。

低温で割れないことは、前提です。

そのうえで、大型タンクをつくるには溶接性が要る。海の上で使うには耐食性が要る。内圧に耐えるには強度が要る。溶接した後も、強度が残らなければならない。

その総合で選ばれています。

低温靭性だけで選ばれた合金では、ありません。

低温で「強度も上がる」

興味深いことに、アルミニウムは低温になると強度も向上します。

実測値があります。20℃から-165℃まで冷却したとき、こう変化します。

合金弾性係数耐力引張強さ破断ひずみ
5083-H112+5.1%+8.7%+7.8%-16.4%
6061-T6+6.5%+12.0%+13.1%-12.4%

強度は上がります。ただし、伸びは落ちます。

「低温でも何も変わらない」わけではありません。脆性破壊はしない。しかし、粘りは少しずつ減っていきます。

鉄鋼材料との違いは、変化の仕方です。

鉄鋼は、ある温度を境に急激に靭性を失う。

タイタニックの鋼は、32℃から56℃のあたりで、粘りを失いました。境目があるのです。

アルミニウムには、その境目がありません。緩やかに変わるだけです。


低温で使用する際の注意点

アルミニウムが低温に強いとはいえ、設計上の配慮は必要です。

溶接部の特性

溶接を行うと、熱影響部(HAZ)の金属組織が変化します。低温環境で使う場合、溶接部の特性も確認が必要です。

5083が低温用途に選ばれる理由のひとつは、非熱処理型合金であることです。熱処理で強度を出していないため、溶接の熱による強度低下が、熱処理型合金より小さい。

熱膨張係数の違い

アルミニウムの線膨張係数は23.6×10⁻⁶/℃。鉄の11.7×10⁻⁶/℃に対して、約2倍です。

極低温まで冷却されると、大きく収縮します。異種金属と組み合わせる場合、この収縮量の違いが応力を生む可能性がある。

接合部の設計では、この熱収縮を考慮した「逃げ」が必要です。

■ コラム:アルミには、低温の衝撃試験規定がない

低温で使う鋼材には、厳しい試験が課されます。

シャルピー衝撃試験。決められた温度で試験片を破壊し、吸収エネルギーを測る。基準を下回れば、その材料は使えません。

タイタニックの鋼を0℃で試験したときの値が4ジュールだった、というのも、この試験によるものです。

では、アルミニウムはどうでしょうか。

ASME(米国機械学会)のボイラー・圧力容器規格に、こういう条文があります。
第VIII巻第1部、UNF-65「低温運転」です。

これらの材料は、氷点下の温度において衝撃抵抗の顕著な低下を示さない。したがって、展伸用アルミニウム合金については-452°F(-269℃)まで、追加の要求事項は規定しない。

-269℃。液体ヘリウムの温度です。

そこまで冷やしても、追加の試験は要らない。規格が、そう定めています。

理由は、条文に書かれているとおりです。「衝撃抵抗の顕著な低下を示さない」から。

温度を下げても、脆性へ移行する境目がない。
だから、境目を探す試験に意味がない。

なお、鋳造用アルミニウム合金、銅および銅合金、ニッケルおよびニッケル合金は、-325°F(-198℃)までとされています。

低温でのアルミニウムの評価には、切欠き引張試験や引裂き試験が使われます。衝撃で割れるかどうかではなく、切欠きがあるときにどれだけ粘るかを測る試験です。

規格が「調べなくていい」と言っている。

これは、性質の強さを、制度の側から示した事実です。


逆に「熱い」とどうなるのか

アルミニウムは低温に強い。

では、高温ではどうでしょうか。

実は、アルミニウムは高温には弱い金属です。

融点は660.4℃。そして、融ける前から強度が落ち始めます。

低温では頼もしいアルミニウムですが、高温環境では注意が必要です。

高温での強度低下については、別記事「アルミニウムの耐熱限界と高温での注意点」で詳しく解説しています。


まとめ

  • 低温脆性:体心立方構造の金属は、低温で脆くなる(タイタニックとLiberty船の教訓)
  • アルミニウムは例外:面心立方構造のため、延性脆性遷移が存在しない
  • 理由はすべり面の数ではない:すべり系はFCCが12、BCCが48。BCCのほうが多い
  • 本当の理由:BCCの転位は、熱の助けを借りてようやく動く。冷やせば助けが消える。FCCの転位は、もともと熱の助けを必要としない
  • どのアルミ合金も低温で脆くならない:低温靭性は、合金選定の理由にならない
  • 5083と2219が低温用タンクに使われる理由:低温特性に加え、強度、溶接性、耐食性の総合
  • 低温で強度は上がる:ただし伸びは落ちる
  • ASMEは-269℃まで追加の衝撃試験を要求しない:境目がないため
  • 注意点:溶接部の特性、熱膨張係数の違い

「冷えても割れない」という特性

アルミニウムの低温靭性は、LNGの安定供給から極低温の研究設備まで、現代社会を支えています。

なぜ低温でも割れないのか。

答えは、原子の並び方——面心立方構造という、金属の本質的な性質にあります。

転位が動くのに、熱の助けを必要としない。だから、冷えても動ける。

この特性があるからこそ、アルミニウムは極限環境で選ばれる材料となっているのです。


関連する特性

  • 耐熱限界:低温に強いが、高温には弱い。対照的な特性
  • 強度:低温では強度も向上する
  • 非磁性:超電導機器など、低温×非磁性が求められる用途

高温での強度低下については、別記事「アルミニウムの耐熱限界と高温での注意点」で詳しく解説しています。


関連する特性

参照資料

  • 一般社団法人 日本アルミニウム協会『アルミニウムとは』(2018年4月)
  • 一般社団法人 日本アルミニウム協会「アルミニウム材料の諸特性データベース」 https://www.aluminum.or.jp/use/materialdb/
  • ASME Boiler and Pressure Vessel Code, Section VIII, Division 1, UNF-65 “Low Temperature Operation”
  • Felkins, K., Leighly, H. P., & Jankovic, A. (1998). “The Royal Mail Ship Titanic: Did a Metallurgical Failure Cause a Night to Remember?” JOM, 50(1), 12–18.
  • Foecke, T. (1998). “Metallurgy of the RMS Titanic.” NIST-IR 6118, National Institute of Standards and Technology.
  • Tipper, C. F. (1962). The Brittle Fracture Story. Cambridge University Press.
  • Po, G., Cui, Y., Rivera, D., Cereceda, D., Swinburne, T. D., Marian, J., & Ghoniem, N. (2016). “A phenomenological dislocation mobility law for bcc metals.” arXiv:1608.01392.
  • Berry, J., Provatas, N., Rottler, J., & Sinclair, C. W. (2014). “Phase Field Crystal Modeling as a Unified Atomistic Approach to Defect Dynamics.” arXiv:1403.0601.
  • Xu, W. et al. (2023). “Evaluations of low-temperature mechanical properties and full-range constitutive models of AA 5083-H112/6061-T6.” Construction and Building Materials.

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