当社は、金属部材に薄膜を形成し、放射による放熱を高める「放熱塗工」を手掛けています。膜厚は数マイクロメートル。部材の寸法や重量をほとんど変えずに、熱を逃がす経路を一つ加えます。
金属は、熱を放つのが苦手です
熱が逃げる経路は、三つあります。
- 伝導 接触した相手に熱を渡す
- 対流 空気の流れが熱を運ぶ
+ 放射 赤外線として、空間そのものへ放つ
三つ目の放射は、表面を処理していない金属ではほとんど働いていません。どんな物体にもある経路ですが、金属の表面は放射率が低いためです。熱をよく伝える金属ほど、この傾向が強くなります。
放熱塗工は、この経路を活かす技術です。薄膜が部材表面の熱を受け取り、高い放射率で外部へ放射します。膜が薄いため、部材そのものの形状や特性をほとんど変えずに、熱を逃がす先に空間が加わります。
効果が得られやすい条件、小さくなる条件
効果が得られやすい条件
- 真空中で使う(対流が働かないため、放射が唯一の経路になります)
- ファンがない、または風が当たりにくい
- 密閉された筐体の中にある
- 表面に塗装やアルマイト処理をしていない
- 動作温度が高い
当てはまるほど、放熱全体に占める放射の割合が大きくなります。
効果が小さくなる条件
- 強制空冷で、風がよく当たっている
風が当たっている部材では、対流が放熱の主役です。放射が占める割合は小さくなります。
ただし、強制空冷でも効果がなくなるわけではありません。風の当たらない面、ファンから遠い面、筐体の内壁には、放射の経路が残っています。部材のどこに効果が見込まれるかは、構造によって変わります。
なお、保温が目的の部材には適しません。放射を増やす技術のため、熱を留めたい場所では逆に働きます。
測定結果
周囲温度25℃、投入電力8.84Wの同一条件で、塗工品と無処理品を比較しました。
熱源の温度には、20℃前後の差が出ています。部材上の測定した3点でも、10〜20℃台の差を確認しました。同じ電力を入れた状態で、塗工品のほうが低い温度で安定しています。
また、別の測定では、一般的な黒色塗装と比較して放射率が高いことが示唆されており、放射による放熱を向上させる効果が期待できるとの結果が得られています。
お手元の部材で何℃下がるかは、構造と環境によって変わります。
ご相談いただいている分野
実際に放熱の課題についてご相談をいただいた部材です。評価段階のものと、検討段階のものが含まれます。
| 分野 | 部材 |
|---|---|
| モビリティ | EVモーターのステーター、バッテリーセルの外壁、LiDARハウジング、ミリ波レーダーのケース、ドローンのモーター・ESC筐体 |
| 通信 | 基地局アンテナのレドーム内壁、光トランシーバモジュールの筐体 |
| デバイス | ベイパーチャンバー、サーバーのメモリ周辺、ヒートパイプ、AR/VRグラスのフレーム、ウェアラブル機器 |
| 産業・半導体 | 露光装置の真空部品、ウェーハ搬送ロボットの関節、半導体レーザーのマウント台座、ペルチェ素子の排熱面 |
| 電力 | ヒートシンク、配線、バスバー、リレー・コンタクタ |
いずれも、冷却機構を追加する余地がない、あるいは追加したくない部材です。寸法に余裕がない、重量を増やせない、部品を足せない。そうした制約の中で、表面にできることを探して相談に至っています。
製品仕様
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 膜厚 | 1〜5μm |
| 耐熱性 | −70〜+150℃(熱影響評価を実施) |
| 密着性 | 10〜20MPa |
| 耐食性 | CASS(キャス)試験を実施 |
| 曲げ | ある程度の曲げに追従します |
従来の放熱塗工と比べて、当社の測定条件において最大約1.5倍の放熱性能を確認しています。
塗って、乾燥させるだけです
常温から低温での乾燥で完了します。特殊な焼成工程を必要としないため、焼成炉のない設備でも塗工できます。
従来の放熱塗工に比べて、加工コストを抑えられる見通しです。
対応する素材
アルミニウム、銅、銀のほか、鋼、ニッケルなどの金属部材に対応します。
放射率が低い素材ほど、改善の幅が大きくなります。銅や銀のように、熱をよく伝えるのに放射しにくい素材で、差が出やすくなります。
当社のアルミ押出材に限らず、お客様の金属部材への塗工についてご相談を承っています。
薄膜だからできること
ベイパーチャンバー・ヒートパイプの内部への塗工
薄膜のため、VCやヒートパイプの内部にも塗工できます。外側からでは届かない部位に、放射の経路を加えられます。
フィラーの固定と配向
100μm程度までのフィラーを強固に固定できます。フィラーを立たせることで表面積が増え、放熱力が上がります。配向の制御も可能です。
開発中の応用
フィラーの種類と配向を変えることで、放熱以外の機能を持たせられる可能性があります。ミリ波帯の電磁波吸収は、その一つとして検討している段階です。
現時点で、特定の周波数帯における吸収性能の測定は行っていません。
お問い合わせ
本技術を用いた放熱部材の共同開発、受託加工のご相談を承っています。
「この部材に使えるか」「自分たちの使用条件でどの程度の効果が見込まれるか」といったご相談も承ります。お手元の部材の材質・形状とあわせて、お問い合わせください。
