アルミの強度の基本が分かる!設計に活かせる計算と選び方のコツ

そのアルミ部品、なぜか計算通りにいかない「強度」の謎 – 設計の壁を打ち破る

「図面上の強度計算は完璧なはずなのに、試作品テストでまさかの変形…」
「軽量化とコストダウンの狭間で、アルミの強度設定にいつも頭を抱えている…」

アルミ押出材を用いた設計の現場では、このような「強度」に関する尽きない悩みや、時には苦い経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

JIS規格の数値は、確かに客観的な指標です。

しかし、その数値が実際の製品性能にどう反映され、押出という製造プロセスとどう深く関わっているのか、その「つながり」が見えにくいことが、設計の確信を持てない一因かもしれません。

この記事は、そんな設計者の皆様が抱える「強度」に関するモヤモヤを解消し、より自信を持って材料を選び、設計判断を下すための一助となることを目指しています。

単に規格を解説するのではなく、日々アルミを押出し、その品質と向き合っている私たちだからこそお伝えできる、製造現場の「リアルな視点」(設計そのものではありません)を交え、強度設計の新たな気づきを提供します。

目次

アルミ強度:JIS規格と主要指標 – 鉄や他のアルミと比較して見えてくる個性

アルミ部品の性能と安全性を左右する「強度」。

その客観的な指標として、私たちはJIS規格(日本産業規格)に定められた機械的性質を参照します。JIS規格は、確かな製品を作る上での共通言語であり、設計者にとっても、私たちのような押出メーカーにとっても、品質を語る上でのブレない軸となる、非常に大切なものですね。

しかし、規格書に並ぶ数値だけを見ても、それが具体的にどれくらいの強さなのか、特に他の代表的な金属材料や、同じアルミニウムの中でも種類によってどう違うのか、イメージしにくいこともあるかもしれません。

ここで、代表的な構造材料である「鉄(一般的な軟鋼 SS400など)」と、特性の異なるいくつかの「アルミニウム合金」の主な機械的性質の目安を比べてみましょう。この比較から、アルミの強度特性の「個性」と「多様性」が見えてくるはずです。

【表A:アルミニウム合金と鉄(一般的な軟鋼)の機械的性質 比較の目安】

スクロールできます
特性項目アルミ (A1050-H24例)アルミ (A6063-T5例)アルミ (A6061-T6例)鉄 (SS400例)単位備考(アルミの視点から)
比重約2.7約2.7約2.7約7.8鉄の約1/3の軽さ。アルミの大きな魅力。
引張強さ約105185 以上310 以上400~510N/mm²合金や質別で大きく変動。A6061-T6は高強度。単純な強度は鉄に劣るが、「軽さあたり強さ(比強度)」では有利な場合も。
耐力約80145 以上275 以上245 以上 (板厚による)N/mm²設計上の重要指標。A6061-T6は鉄に迫る耐力も。
ヤング率 (縦弾性係数)約70,000約70,000約70,000約200,000N/mm²材料の変形しにくさ。アルミは鉄の約1/3。同じ力で約3倍たわみやすいが、衝撃吸収性や加工性にはプラス。

※上記はあくまで代表的な材料・質別における目安の数値であり、実際の設計では詳細な規格や材料証明書をご確認ください。A1050は純アルミに近く強度は低いですが加工性に優れます。A6063はバランス型、A6061は高強度型の代表例です。

この表から何が見えてくるでしょうか。確かに、引張強さや耐力の絶対値だけを比べると、多くの場面で鉄の方が高い数値を示します。しかし、アルミの真価は、その圧倒的な「軽さ」と、合金や熱処理によって「強度をコントロールできる多様性」にあります。

例えば、A6061-T6のような高強度アルミ合金は、鉄に迫る耐力を持ちながら、重さは約1/3です。つまり、同じ強度を出すために必要な部品の重さを劇的に軽くできる可能性を秘めているのです。これは、航空機や自動車、あるいはロボットアームなど、軽量化が性能向上に直結する分野でアルミが選ばれる大きな理由です。

また、ヤング率(変形のしにくさ)が鉄に比べて低いということは、同じ形状・同じ力であればアルミの方がたわみやすい、ということになります。これをデメリットと捉えるか、メリットと捉えるかは、設計思想によります。衝撃を受けた際にしなやかに変形してエネルギーを吸収する、あるいは曲げ加工がしやすいといった利点にも繋がるのです。

このように、アルミの強度を評価する際には、単に「強いか弱いか」という一面的な見方ではなく、「軽さ」「加工性」「耐食性」といった他の優れた特性と、製品に求められる機能やコストを総合的に比較し、最適なバランスを見つけ出すことが非常に重要になってきます。

さて、この「鉄や他のアルミ合金との比較」を頭の片隅に置きつつ、次にJIS規格で定められたアルミの主要な強度指標(引張強さ、耐力、伸び、硬さ、疲れ強さ)について、それぞれの「数値が示す本質」と「設計における実践的な意味合い」を、より詳しく見ていきましょう。

引張強さ (Tensile Strength) – 素材が示す「最終的な抵抗力」の限界点

引張強さは、アルミ材料が外部から一方向に引っ張られる力を受けた際に、最終的に破断(ちぎれてしまうこと)に至るまでに耐えうる最大の応力(単位面積あたりにかかる力)を示す数値です。JIS規格では通常、N/mm²(ニュートン毎平方ミリメートル)またはMPa(メガパスカル)という単位で規定されています。

この数値が高いほど、文字通り「引っ張る力」に対して「強い」材料であると言えます。例えば、常に一定の張力が作用するワイヤーや、大きな引張荷重を受ける構造物のジョイント部分など、直接的な引張荷重が設計上の主要な関心事となる部品においては、まず参照すべき基本的な強度値の一つとなります。「この部品には、最低でもこれくらいの引張強さの材料を選ばなければ、安全性を担保できない」という、設計の初期段階での「足切りライン」を設定する際の、重要な根拠となるわけです。

ただし、設計実務においては、この引張強さの値をそのまま「ここまで力をかけても絶対に安全」という許容応力として用いることは、通常ありません。なぜなら、引張強さはあくまで「素材が破壊に至るギリギリの限界点」であり、実際に製品がその応力に達するずっと前に、次に詳しくご説明する「耐力」というポイントを超えてしまい、元に戻らない変形(塑性変形)が生じてしまっている可能性が高いからです。製品としての機能が保てなくなる変形は、引張強さよりもはるかに低い応力で始まるという点を、まずはしっかりと認識しておくことが重要です。例えるなら、引張強さは「崖っぷちの一歩手前」、そのずっと手前にある「安全に歩ける道」の限界が耐力、というイメージに近いかもしれません。

【表1:代表的なアルミ押出合金の引張強さの目安と、設計・製造上のポイント(JIS H4100より抜粋・簡略化)】

合金番号 (代表的な質別)引張強さ (N/mm²) [最小保証値の例]特徴・用途キーワードと、強度設計のヒント
A6063-T5185加工性◎・意匠性◎・標準強度 / 建築サッシ、内外装 / 複雑形状・薄肉可 / 大きな構造荷重は断面工夫・耐力確認
A6005C-T5270A6063より高強度・構造用 / 車両、機械フレーム / 押出性やや注意(コスト・納期影響も考慮)
A6061-T6310高強度・熱処理合金 / 船舶、構造物、高負荷部品 / 溶接後の強度低下注意、押出・熱処理管理が重要
A3003-H18200加工性◎・中強度・耐食性◎ / 器物、建材パネル / 加工硬化材(スプリングバック注意)、押出は板・管が多い

※上記はあくまで一部の代表例であり、質別や製品の板厚・形状によって保証値は異なります。必ず最新のJIS規格原文および材料メーカー発行のミルシート等で、詳細な数値をご確認いただくことが重要です。また、これらの「押出メーカーから見た製造上の留意点」は、一般的な傾向を示すものであり、個別の設計案件については別途詳細な検討が必要です。

この表からもお分かりいただけるように、同じ「アルミニウム」という素材であっても、添加される元素の種類や量(合金番号の違い)、そして施される熱処理や加工硬化の度合い(質別の違い)によって、その「引張強さ」は大きく変化します。そして、その数値は、そのアルミ押出材がどのような用途に向いているのか、あるいはどのような点に留意して使用すべきなのか、という最初の、そして非常に重要な手がかりを与えてくれます。私たち押出メーカーは、これらの合金ごとの特性や押出のしやすさ、そして時にはJIS規格の数値には現れないような微妙な「材料のクセ」といったものを日々肌で感じながら、お客様の求める強度と品質を実現するための最適な製造条件を追求し、安定した材料供給に努めています。

しかし、先ほども触れたように、設計者が製品の安全性を確保し、実用的な性能を保証する上で本当に注目すべきは、この「破壊に至る限界の強さ」よりも、むしろ「安全に使用できる範囲の強さ」を示す別の指標かもしれません。次に、その「耐力」について、さらに詳しく見ていきましょう。

耐力 (Yield Strength) – 部品が「元に戻らなくなる」変形の始まりを見極める

引張強さが素材の「最終的な破壊限界」を示すのに対し、耐力(多くの場合0.2%耐力と表記されます)は、材料に力を加えていったときに、永久変形(力を取り除いても元に戻らない変形)がごくわずか(JIS規格では通常0.2%)に生じ始める応力を示します。単位は引張強さと同じくN/mm²またはMPaです。

設計者の皆様にとって、この「耐力」は、多くの場合、引張強さ以上に重要な意味を持つ指標と言えるでしょう。なぜなら、ほとんどの機械部品や構造物は、目に見える変形が生じた時点で、たとえ破壊していなくても製品としての機能や安全性を損なってしまうからです。

例えば、精密機械のフレームがわずかに歪んでしまえば、組み付けられた部品の位置精度が狂い、装置全体が正常に作動しなくなる可能性があります。

したがって、アルミ部品が通常の使用条件下で受ける最大の応力は、原則としてこの「耐力」を超えないように設計するのが一般的です。耐力の数値が高いほど、「より大きな力が加わっても変形しにくい、しっかりとした材料」であると評価できます。

特に、繰り返し荷重がかからない静的な負荷(一定の力がかかり続ける状態)を受ける部品の設計では、この耐力を基準に安全率を考慮して許容応力を設定することが多いです。ただし、衝撃的な負荷や、使用温度が高くなる場合は、耐力の解釈にも注意が必要です。

伸び (Elongation) – 素材の「粘り強さ」がもたらす安全性と加工性

伸びは、材料が引張試験で破断するまでに、どれだけ長く引き伸ばされたかを示す指標で、通常パーセント(%)で表されます。この数値が大きいほど、材料は「粘り強い(靭性がある)」と言え、衝撃的な力が加わった際に、すぐにはパキッと割れずに、ある程度変形しながらエネルギーを吸収する能力が高いことを意味します。

設計においては、この「伸び」の特性は、特に安全性が重視される部品や、万が一の過大荷重時に即座の破壊を避けたい場合に重要となります。

例えば、自動車の衝突安全ボディの一部や、建築物の耐震部材などでは、ある程度の変形を許容することで衝撃エネルギーを吸収し、より大きな被害を防ぐという設計思想が取り入れられています。

また、「伸び」が大きい材料は、一般的に曲げ加工や深絞り加工といった塑性加工がしやすい傾向があります。私たち押出メーカーにとっても、材料の「伸び」は、複雑な断面形状を押出す際の「割れの発生しにくさ」や「成形性の良さ」に関わる重要な特性の一つとして捉えています。

高強度なアルミ合金は、一般的に「伸び」が小さくなる傾向があります。強度を追求するあまり、伸びが極端に低い材料を選んでしまうと、予期せぬ衝撃で脆性的に破壊したり、加工性が著しく低下したりする可能性があるため、強度と伸びのバランスを考慮した材料選定が重要です。

硬さ (Hardness) – 「表面の強さ」が耐摩耗性や外観品質に影響

硬さは、材料の表面が他の物体によって傷つけられたり、押し込まれたりすることに対する抵抗の度合いを示す指標です。JIS規格では、ブリネル硬さ(HBW)、ビッカース硬さ(HV)、ロックウェル硬さ(HR)など、いくつかの試験方法と尺度が用いられます。

この数値が高いほど、材料の表面は「硬く、傷つきにくい」と言えます。したがって、摺動部品のように摩耗が問題となる箇所や、製品の外観品質として傷つきにくさが求められる場合には、重要な特性となります。

一般的に、アルミ合金の強度が上がると硬さも高くなる傾向がありますが、必ずしも比例関係にあるわけではありません。また、硬すぎると材料が脆くなる(靭性が低下する)こともあるため、用途に応じた適切な硬さの選定が必要です。

【押出メーカーから見た表面硬度】 アルミ押出材の場合、表面の硬さは、その後のアルマイト処理などの表面処理の仕上がりや、加工時の取り扱いやすさ(例えば、切削加工時の刃物の摩耗など)にも影響を与えることがあります。私たちは、お客様の求める最終製品の品質を考慮し、素材の硬さにも注意を払っています。

疲れ強さ (Fatigue Strength) – 見過ごせない「繰り返しの力」への耐久性

疲れ強さ(または疲労強度、疲労限度)は、材料に繰り返し応力が作用した場合に、破壊に至るまでに耐えられる応力の最大値を示す指標です。これは、自動車のエンジン部品、航空機の翼、あるいは橋梁といった、運転中や使用中に絶えず変動する力を受ける部品の設計において、極めて重要な意味を持つ特性です。

なぜなら、たとえ一回一回の力が耐力以下であっても、それが何万回、何百万回と繰り返されるうちに、材料内部に微細な亀裂が発生し、それが徐々に進展して、ある日突然、何の前触れもなく破壊に至ることがあるからです。これが「疲労破壊」と呼ばれる現象で、多くの構造物や機械部品の事故原因となっています。

残念ながら、一般的なJIS規格の材料証明書(ミルシート)には、この「疲れ強さ」の数値が記載されていないことも多く、設計者がこの情報を得るためには、専門的なデータベースを参照したり、場合によっては追加の試験が必要になったりすることもあります。

【「見えない疲労」のリスク】
特に軽量化のために高強度材を採用し、許容応力を高めに設定した場合や、振動が多い環境で使用される部品では、この「疲れ強さ」の評価を怠ると、深刻な問題を引き起こす可能性があります。私たち押出メーカーとしても、お客様の製品が長期にわたり安全に使用されるために、この「疲れ強さ」という視点の重要性を、機会があればお伝えするようにしています。

主要アルミ押出合金(6000系中心)の強度特性と、選び方のヒント

JIS規格で定められた強度指標は、アルミ合金の種類や質別(熱処理の状態など)によって大きく異なってくることを、H2で見てきましたね。

では、実際にアルミ押出材を選ぶ際、特に多くの場面で活用される6000系アルミニウム合金を中心に、それぞれの強度特性と、設計者がより賢明な材料選定をするための着眼点について、もう少し詳しく掘り下げていきましょう。

「この部品には、どの合金が最適なんだろう?」
「強度を優先すると、コストや作りやすさはどうなるんだろう?」

そんな具体的な疑問に答えるヒントが、ここにあるかもしれません。私たち押出メーカーの視点も交えながら、一緒に見ていきましょう。

A6063 – 押出材の“オールラウンダー”、加工性と強度の絶妙なバランス

A6063は、マグネシウム(Mg)とシリコン(Si)を主な添加元素とするアルミ合金で、その抜群の押出加工性、良好な耐食性、そしてアルマイト処理後の美しい仕上がりから、「押出材の代表格」として、建築用サッシや内外装材、各種機械装置のカバーやフレーム、さらには私たちの身の回りにある様々な製品の部品として、本当に幅広く利用されています。まさに“オールラウンダー”と呼べる存在です。

A6063の強度レベルと、T5処理・T6処理の違いとは?

A6063の強度は、主に押出後の熱処理(質別)によって調整されます。

最も一般的なのはT5処理(人工時効硬化処理の一種で、押出時の熱を利用して冷却後、比較的低温で時効硬化させる)ですが、より高い強度が必要な場合には、完全な溶体化処理後に時効硬化させるT6処理が施されることもあります。

質別引張強さ (N/mm²) [最小保証値例]耐力 (N/mm²) [最小保証値例]伸び (%) [最小保証値例]設計・選定上の主なポイント
T5処理1851458標準的な強度と優れた押出性を両立。複雑な断面形状や薄肉のデザインも比較的容易に実現可能です。一般的な構造部材としては十分な強度を持ちますが、特に大きな負荷がかかる部分や、たわみを厳密に抑えたい場合には、断面形状の工夫(リブの追加、中空部の最適化など)や、次に紹介する高強度合金の検討が必要になります。
T6処理2402158T5処理品に比べて引張強さ、耐力ともに明確に向上し、より高い構造強度が求められる用途に適します。例えば、より大きな荷重を受ける建築部材や機械フレームなどです。ただし、強度が高まる分、押出後の矯正加工がT5材に比べて難しくなったり、溶接を行うと熱影響で強度が低下しやすかったりする(T5材も同様ですが、より顕著になる傾向)といった側面も考慮に入れる必要があります。押出メーカーとしては、T6処理を安定して行い、均一な強度特性を引き出すための熱処理条件の精密な管理が品質を左右する重要なポイントとなります。

※上記はJIS H4100に基づく代表的な最小保証値の例であり、板厚・形状等により異なります。

A6063を賢くポイント

A6063の最大の魅力は、やはりその「押出のしやすさ」と「コストパフォーマンスの良さ」です。

しかし、その万能さゆえに、「本当にこの部品にA6063で十分な強度があるのか?」という点は、設計者にとって常に検討すべき課題でしょう。

私たち押出メーカーの立場から見ると、A6063で強度不足が懸念される場合でも、単純に「もっと強い合金に変えましょう」と言う前に、「押出だからこそできる断面形状の工夫」で解決できる道がないかを探ることがよくあります。例えば、中空部分の形状を少し変えるだけで曲げ剛性が格段に向上したり、応力が集中しそうな箇所に小さなリブを一本追加するだけで強度が改善したりするケースは少なくありません。

このような「形状による強度最適化」は、材料コストを抑えつつ、A6063の持つ優れた加工性や表面処理性を最大限に活かすための、非常に有効なアプローチです。私たちは、お客様の設計思想を尊重しつつ、長年の押出経験から「この形状であれば、こういう工夫で強度と製造のしやすさのバランスが取れますよ」といった具体的な情報を提供することで、お客様の製品価値向上に貢献したいと考えています。(設計そのものではありませんが、製造の観点からのアドバイスです)

A6005C – A6063では少し物足りない、そんな時の「高強度」選択肢

A6005Cも、A6063と同じ6000系のアルミ合金ですが、シリコン(Si)の含有量がA6063より多く、さらにマンガン(Mn)やクロム(Cr)といった元素が適量添加されることで、A6063よりも高い強度特性を発揮します。そのため、鉄道車両の構体や、産業機械の構造フレーム、太陽光パネルの架台といった、より大きな荷重に耐える必要のある用途でその真価を発揮する合金です。

A6005Cの強度レベルと、A6063との使い分け

A6005CのT5処理品は、一般的にA6063のT6処理品と同等か、それ以上の強度を持つことがあります。

合金番号 (質別)引張強さ (N/mm²) [最小保証値例]耐力 (N/mm²) [最小保証値例]伸び (%) [最小保証値例]設計・選定上の主なポイント
A6005C-T52702258A6063-T5と比較して、引張強さ、耐力ともに明確に高い数値を示します。これにより、同じ断面積であればより大きな荷重に耐えることができ、あるいは同じ荷重であれば断面を小さく(=軽量化)できる可能性があります。一方で、一般的にA6063に比べて押出加工性が若干シビアになると言われており、特に複雑な断面形状や非常に薄い肉厚の製品を押出す際には、金型設計や押出条件の最適化により高度な技術と経験が求められることがあります。これが、材料コストだけでなく、金型費や加工費に影響を与える可能性も考慮に入れる必要があります。

※上記はJIS H4100に基づく代表的な最小保証値の例であり、板厚・形状等により異なります。

A6063とA6005Cのどちらを選ぶべきか。それは、まさに「要求される強度レベル」「製品形状の複雑さ」「コスト目標」「必要な耐食性や表面処理の仕様」といった複数の要素を総合的に比較検討する、設計者の腕の見せ所と言えるでしょう。

A6005C採用を検討する際の「押出メーカーとの連携ポイント」

A6005Cのような高強度合金の採用を検討される際には、ぜひ私たちのような押出メーカーに、できるだけ早い段階でご相談いただくことをお勧めします。なぜなら、

  • 製造可能性の事前確認: お客様が描いた理想の形状が、A6005Cという材料で、求める強度を保ちつつ、かつ安定して押出可能かどうかを、製造のプロの視点から事前に検証できます。
  • コストと品質の最適バランスの模索: 「この部分の肉厚をあと0.5mm増やせれば、より安定した押出が可能になり、結果的にトータルコストを抑えられるかもしれません」といった、具体的な提案ができる場合があります。
  • 納期への影響の共有: A6005Cのような合金は、A6063に比べてビレットの入手性や押出条件設定の難易度から、納期に影響が出るケースも考えられます。早期に情報共有することで、プロジェクト全体のスケジュール管理に貢献できます。

私たちは、お客様の設計思想を最大限に尊重しつつ、その設計を最も効率的かつ高品質に実現するための「押出のノウハウ」を提供することで、お客様の製品開発を力強くサポートしたいと考えています。

(【比較表】A6063 vs A6005C – 強度・押出性・コスト感 早わかり)

特性項目A6063-T5A6063-T6A6005C-T5備考・選定のヒント
引張強さ目安185 N/mm²以上240 N/mm²以上270 N/mm²以上数値が高いほど、単純な引張力に強い。
耐力目安145 N/mm²以上215 N/mm²以上225 N/mm²以上設計上、この値を超えないようにするのが基本。
押出性◎(非常に良好)◯(良好)△~◯(やや注意~良好)複雑形状・薄肉形状の実現しやすさ。△は金型や条件設定に工夫が必要な場合あり。
耐食性◎(非常に良好)◎(非常に良好)◎(非常に良好)一般的な環境下では問題なし。
アルマイト性◎(非常に良好)◎(非常に良好)◎(非常に良好)美しい外観仕上げが可能。
代表的な用途建築サッシ、内外装、汎用フレーム、部品ケース強度が必要な建築部材、機械フレーム、照明器具など鉄道車両構体、産業機械フレーム、太陽光パネル架台などより高い構造強度が求められる場合に。
コスト感(目安)標準標準~やや高やや高材料費、押出加工費、熱処理費などを総合的に考慮。押出形状の複雑さによっても変動。

※この表はあくまで一般的な傾向と比較の目安を示すものであり、具体的な数値や適用可否は、必ず個別の設計条件や最新のJIS規格、材料メーカーの資料に基づいてご判断ください。

「断面形状」が強度を左右する – 設計段階で知っておきたい7つの視点

アルミ押出材の強度は、もちろん合金の種類や熱処理(質別)によって大きく左右されます。しかし、それと同じくらい、あるいは場合によってはそれ以上に最終製品の強度性能に影響を与えるのが、「押出材の断面形状」です。

「どんな形状で押出すか」ということは、単に部品の見た目や機能だけでなく、材料内部の金属の流れ、応力の集中具合、そして冷却時の変形のしやすさなど、強度に関わる様々な要因と密接に結びついています。私たち押出メーカーは、日々様々な断面形状のアルミ材を製造する中で、その奥深い関係性を肌で感じています。

ここでは、設計者の皆様がアルミ押出材の強度を最大限に引き出すために、設計段階で知っておくと役立つかもしれない「断面形状に関する7つの視点」を、押出製造の現場からの気づきとしてご紹介します。これらは設計そのものに対する指示ではありませんが、製造のしやすさ(押出性)と強度のバランスを考える上でのヒントになるはずです。

①肉厚の急激な変化は避ける – 応力集中と内部欠陥リスクを低減するために

アルミ押出材の断面内で、厚い部分と薄い部分が隣接し、その厚みの変化が急激である場合、いくつかの強度上の懸念が生じやすくなります。

応力集中
部材に力がかかった際、肉厚が急に変わる角部分に応力が集中しやすくなり、そこが破壊の起点となることがあります。これは、同じ断面積の材料でも、形状によって実際の強度が大きく変わってしまう典型的な例です。

押出時の金属の流れの乱れ
押出時、太い部分と細い部分では金属の流れる速度が異なります。この速度差が大きいと、流れの合流部分などで乱れが生じ、内部に微細な空隙(ヒケ巣など)が発生したり、金属組織が不均一になったりして、その部分の強度が低下する原因となることがあります。

冷却時の歪みと残留応力
押出後、太い部分は冷えにくく、薄い部分は冷えやすいという冷却速度の差から、部材内部に不均一な「残留応力」が発生しやすくなります。この残留応力が、製品使用時にかかる外力と複合的に作用し、予期せぬ変形や割れを引き起こすこともあります。

可能な範囲で、肉厚の変化は緩やかにし、角部分には適切なR(丸み)を設けることが、応力集中を緩和し、より均一で安定した強度特性を得るための基本的なポイントです。私たち押出メーカーとしても、このような配慮がなされた設計は、より高品質な製品を安定して製造しやすくなります。

②中空形状・リブ構造 – 強度と軽量化を両立させる押出ならではの工夫

アルミ押出の大きな魅力の一つは、複雑な中空断面や、効果的なリブ(補強のための突起)を一体で成形できることです。これらを上手く活用することで、材料の使用量を抑えつつ(=軽量化)、必要な強度や剛性を確保することが可能になります。

中空形状の活用
例えば、同じ断面積の丸棒と中空のパイプを比較した場合、曲げやねじりに対する強さ(特に単位重量あたりの強さ)は、多くの場合、中空パイプの方が有利になります。中空部分の形状や配置を工夫することで、少ない材料で高い剛性を実現できるのです。

リブの効果的な配置
薄い板状の部分も、適切な位置にリブを設けることで、座屈(圧縮力によって折れ曲がる現象)に対する抵抗力を大幅に高めることができます。リブの高さや厚み、間隔などを最適化することで、軽量化と強度向上の両立が期待できます。

「この部品、もう少し軽くしたいけど強度が心配…」そんな時こそ、アルミ押出による中空化やリブ構造の採用を検討する価値があります。私たち押出メーカーは、お客様の求める強度や機能に応じて、「このような中空形状であれば、現在の重量を〇%削減しつつ、同等以上の曲げ剛性が期待できますよ」といった、製造の観点からの具体的な形状提案のヒントを提供できる場合があります。(設計そのものではありません)

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③適切なR(丸み)は強度と金型寿命の“お守り”

断面形状のコーナー部分(入隅・出隅)に適切なR(丸み)を設けることは、強度確保と製造効率の両面から非常に重要です。

応力集中の緩和
ピン角(Rがない鋭利な角)は、応力が極端に集中しやすく、そこから亀裂が発生する起点となりがちです。適切なRを設けることで、応力を分散させ、部材全体の強度的な信頼性を高めることができます。

金型への負荷軽減と寿命向上
押出時、鋭利な角を持つ金型は、その部分に大きな負荷がかかり、摩耗や破損のリスクが高まります。適切なRは、金型内の金属の流れをスムーズにし、金型への負荷を軽減することで、金型の寿命を延ばし、結果として製品コストの安定にも繋がります。

押出材の表面品質向上
鋭利な角は、押出時に表面にスジ(ダイスマーク)が入りやすくなる原因にもなります。Rを設けることで、より滑らかで美しい表面仕上げを得やすくなります。

機能上許容される範囲で、できるだけ大きなRを設けることが、強度、品質、コストの全てにおいてメリットをもたらすことが多いです。特に指定がない場合でも、私たち押出メーカーは、製造性と品質の観点から、適切なRについてご相談させていただくことがあります。

④押出方向と主たる負荷方向 – アルミの“目の向き”を意識する

アルミ押出材は、製造工程の特性上、押出方向に沿って金属組織が繊維状に揃う傾向があります(これを「繊維状組織」や「加工組織」と呼びます)。このため、一般的に押出方向(長手方向)の強度特性と、それに直角な方向(幅方向や厚さ方向)の強度特性には、若干の違い(異方性)が生じることがあります。

引張強さや伸び
多くの場合、押出方向の方が、それに直角な方向よりも高い数値を示す傾向があります。

応力腐食割れ感受性
合金の種類や質別によっては、特定の方向に応力がかかり続けると、腐食環境下で割れやすくなる(応力腐食割れ)現象が見られることもあり、この感受性にも方向性が影響することがあります。

部品に主たる力がかかる方向と、押出材の押出方向を意識して設計することが、材料の持つ強度ポテンシャルを最大限に引き出す上で重要になる場合があります。特に、高い信頼性が求められる構造部材などでは、この異方性を考慮した設計や材料選定が求められることもあります。私たち押出メーカーは、JIS規格に基づき、押出方向に対してどの向きに試験片を採取して強度を保証するかを管理しています。

⑤嵌合(かんごう)部の設計 – 強度と組付けやすさのバランス

アルミ押出材は、その形状自由度の高さを活かして、他の部品と勘合(はめ合わせ)させて使用されることも多いです。この嵌合部の設計は、部品全体の強度や組付け作業性、そして見た目の美しさに大きく影響します。

クリアランス(隙間)の最適化
嵌合部のクリアランスが小さすぎると、組付けが困難になったり、無理な力で組み付けることで部品に応力が残留したりする可能性があります。逆に大きすぎると、ガタつきが生じ、期待した強度や機能が得られないことがあります。

嵌合形状の工夫
単純な凹凸形状だけでなく、スナップフィット(弾性を利用したはめ込み)や、蟻溝(ありみぞ)のような抜けにくい形状など、用途や求められる強度に応じて様々な嵌合形状が考えられます。これらの形状は、押出の難易度や金型コストにも影響します。

局部的な応力
嵌合部には、組付け時や使用時に局部的に大きな力がかかることがあります。その部分の肉厚を確保したり、応力を分散させるためのRを設けたりといった配慮が強度確保には不可欠です。

嵌合部の設計は、まさに設計者の腕の見せ所ですが、同時に押出メーカーの製造ノウハウが活きる部分でもあります。「こういう嵌合形状にしたいのだけれど、押出で安定してこの精度と強度が出せるだろうか?」といったご相談をいただければ、過去の類似形状の押出実績や、金型設計上の注意点などを踏まえ、より実現性の高い形状にするためのヒントを提供できることがあります。

⑥表面処理(アルマイト等) – 見た目だけでなく、実は強度にも影響が?

アルミ押出材には、耐食性や耐摩耗性の向上、あるいは美観のために、アルマイト処理(陽極酸化皮膜処理)などの表面処理が施されることが一般的です。この表面処理が、実は母材であるアルミの強度特性に影響を与えることがある点を、設計者も知っておくと良いでしょう。

疲労強度への影響
一般的に、アルマイト皮膜は非常に硬くてもろいため、母材のアルミが繰り返し変形するような場合、アルマイト皮膜に微細なクラックが入りやすく、それが疲労破壊の起点となる可能性がある、と言われています。特に、硬質アルマイトのように皮膜が厚く硬い場合や、母材が高強度で伸びが小さい場合には、この影響が顕著になることがあります。

皮膜の応力
アルマイト皮膜の生成過程で、皮膜自体に引張応力や圧縮応力が残留することがあり、これが母材の強度特性(特に疲れ強さなど)に影響を与えるという研究報告もあります。

製品の用途や求められる強度特性(特に繰り返し荷重に対する耐久性)によっては、アルマイト処理の種類や皮膜厚さを慎重に選定する必要があります。私たち押出メーカーは、アルマイト処理業者とも連携し、お客様の製品仕様に最適な表面処理をご提案できるよう努めています。強度と表面品質の両立について懸念がある場合は、ぜひご相談ください。

⑦寸法公差 – 厳しすぎる要求が、強度とコストのバランスを崩すことも

製品の機能や組み立て精度を確保するために、アルミ押出材にも適切な寸法公差が求められます。しかし、必要以上に厳しい寸法公差を設定することは、必ずしも製品全体の品質向上に繋がるとは限りません。むしろ、製造コストの大幅な上昇を招いたり、場合によっては強度特性に悪影響を与えたりすることすらあります。

押出の難易度向上とコストアップ
非常に厳しい公差を要求されると、押出条件の管理が極めてシビアになり、歩留まりが悪化したり、特殊な金型や検査工程が必要になったりして、コストが大幅に上昇します。

無理な矯正による残留応力
押出時に発生する避けられない歪みを、公差内に収めるために無理な矯正加工を行うと、部材内部に好ましくない残留応力が発生し、それが製品使用時の強度や寸法安定性に悪影響を及ぼす可能性があります。

本当にその公差が必要か?の再検証
設計上、本当にその箇所にそこまで厳しい公差が必要なのか、機能的な要求と照らし合わせて再検証することも重要です。「念のため厳しくしておこう」という安易な判断が、見えないコスト増や品質リスクに繋がっているかもしれません。

JIS規格にもアルミ押出形材の寸法公差は定められていますが、それよりも厳しい「特別公差」を求める場合は、必ずその必要性を明確にし、私たち押出メーカーにご相談ください。お客様の製品機能と、私たちが提供できる製造技術のバランスを見ながら、最も合理的で経済的な公差設定を一緒に考えることができます。時には、「この部分の公差を少し緩和する代わりに、こちらの重要な部分の公差をより厳しく管理しましょう」といった、メリハリのある公差設定が、製品全体の価値を高めることもあります。

「ビレット品質」と「押出条件」が最終製品の強度をどう支えるか

アルミ押出材の最終的な強度品質は、目に見える「形状」だけでなく、その素材となる**「ビレットの品質」と、それを形にする「押出条件の精密な管理」**によって大きく左右されます。これらは、設計者の皆様には直接見えにくい部分かもしれませんが、製品強度を根底から支える、私たち押出メーカーにとってはいわば生命線とも言える重要な要素です。

ここでは、安定した強度を持つ高品質なアルミ押出材を製造するために、製造現場でどのような点に注意を払い、どのような取り組みを行っているのか、その一端をご紹介します。

強度の出発点:ビレット品質へのこだわり – 新塊と再生塊、そして化学成分の厳格な管理

押出成形を行うための出発点となる材料が「ビレット」です。このビレットの品質が、最終的なアルミ押出材の強度特性に大きな影響を与えることは言うまでもありません。

新塊(バージン材)ビレットと再生塊(リサイクル)ビレット
当社では、お客様のご要望や製品の用途に応じて、新たに精錬された純度の高いアルミニウムから作られる「新塊ビレット」と、使用済みのアルミ製品や製造工程で発生したスクラップを再溶解して作られる「再生塊ビレット」の両方を使用しています。 一般的に、再生塊ビレットに対して「品質が劣るのではないか?」という懸念を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、リサイクルの過程で微量な不純物が混入する可能性はゼロではありません。しかし、私たち押出メーカーは、再生塊ビレットであっても、その化学成分を厳格に管理し、JIS規格に適合することはもちろん、押出性や最終製品の強度特性に影響が出ないよう、細心の注意を払っています。 実際、適切な成分調整と品質管理が行われた6000系などの合金では、新塊ビレットと再生塊ビレットの間で、強度特性にほとんど差がないレベルを実現することも可能です。むしろ、再生アルミの活用は、エネルギー消費の大幅な削減やCO2排出量の抑制に繋がり、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献という観点からも非常に重要です。

化学成分の精密なコントロール
アルミニウムの強度やその他の特性は、添加される合金元素(シリコン、マグネシウム、銅、マンガンなど)の種類と、そのごくわずかな含有量の違いによって大きく変化します。例えば、6000系合金であれば、マグネシウムとシリコンのバランスが強度と押出性を左右しますし、鉄分は強度を上げる一方で伸びを低下させる傾向がある、といった具合です。 私たち押出メーカーは、ビレットの納入時に、仕入れ先から提供される化学成分の分析証明書(ミルシート)を厳格にチェックし、JIS規格で定められた範囲内であることはもちろん、狙いとする強度特性や押出性を安定して得るために、時にはより厳しい社内基準を設けて管理しています。この素材段階での化学成分の均一性と適切性が、最終製品の強度バラツキを抑え、信頼性を高めるための最初の、そして非常に重要な関門となるのです。

介在物や内部欠陥のチェック
ビレット内部に酸化物や非金属介在物といった異物が混入していたり、鋳造時の巣(微細な空孔)が残っていたりすると、それが押出後の製品の強度低下や、破壊の起点となることがあります。そのため、ビレットの表面状態の目視検査はもちろん、必要に応じて超音波探傷検査などの非破壊検査情報も確認し、内部品質にも注意を払っています。

「押出の技術」が強度を引き出す:温度・速度・冷却の最適化

高品質なビレットを選定したとしても、それを実際に押出す際の製造条件が適切でなければ、狙い通りの強度特性を引き出すことはできません。押出時の温度、押出速度、そして押出後の冷却速度といったパラメータは、アルミの結晶粒度や内部組織、そして最終的な強度特性(特に耐力や伸び、硬さ)に複雑かつ密接に影響し合います。

押出温度と押出速度の精密制御
アルミ合金は、種類によって最適な押出温度域が異なります。温度が低すぎると押出抵抗が大きくなり、金型への負荷増大や、製品表面のムシレといった欠陥の原因となります。逆に温度が高すぎると、合金成分が再固溶しにくくなったり、結晶粒が粗大化したりして、強度が低下したり、表面が荒れたりすることがあります。 また、押出速度も重要です。速度が速すぎると摩擦熱でビレットや金型の温度が上昇しすぎたり、金属の流れが不安定になったりします。遅すぎると生産性が低下するだけでなく、温度降下によって強度に影響が出ることもあります。 私たち押出メーカーは、長年の経験と蓄積されたデータに基づき、合金の種類、押出形状の複雑さ、肉厚、そして求める強度特性に応じて、これらの押出温度と速度をN分の1℃、M分の1 mm/secといった単位で精密にコントロールし、最適な金属組織と寸法精度、そして強度特性を安定して実現することを目指しています。

押出後の冷却プロセスと強度発現
特に6000系のような熱処理型合金の場合、押出後の冷却プロセスが強度発現において非常に重要です。押出機から出てきた高温状態の形材を、適切な速度で、かつ均一に冷却(多くの場合、水冷や空冷ファンによる強制冷却)することで、合金成分を過飽和固溶状態にし、その後の時効硬化処理(T5処理やT6処理など)で高い強度を引き出すための素地を作ります。 この冷却速度が遅すぎたり、不均一だったりすると、時効硬化が十分に進まず、期待した強度が得られないことがあります。私たちは、製品の断面積や形状に応じて最適な冷却方法と条件を選定し、強度バラツキのない高品質な製品づくりを追求しています。

最終仕上げ「熱処理(調質)」– アルミの潜在能力を最大限に引き出す技術

アルミ押出材の強度を最終的に決定づけるのが、熱処理(質別記号では「T」で示される処理、例えばT5やT6など)です。特に6000系や7000系といった熱処理型合金では、この熱処理の巧拙が、強度特性をJIS規格通りに、あるいはそれ以上に引き出せるかどうかの鍵を握ります。

時効硬化のメカニズム(簡潔に)
熱処理型合金は、適切な温度で加熱して合金成分を一旦アルミ母材中に完全に溶け込ませ(溶体化処理)、その後急冷することで、その成分が微細な粒子として析出しにくい不安定な状態(過飽和固溶体)にします。この状態から、さらに適切な温度で一定時間加熱(人工時効硬化処理)、あるいは室温で長時間保持(自然時効硬化処理)することで、微細な金属間化合物が母材中に均一に析出し、金属組織の転位(ズレ)の動きを妨げることで、材料全体の強度や硬さが大幅に向上します。これが時効硬化の基本的な原理です。

熱処理条件の精密な管理の重要性
この時効硬化の効果を最大限に引き出し、かつ均一な強度特性を得るためには、溶体化処理の温度と時間、急冷の速さ、そして時効硬化処理の温度と時間といった各パラメータを、合金の種類や製品の肉厚、形状に応じて極めて精密に管理する必要があります。 例えば、時効温度が高すぎたり時間が長すぎたりすると、析出物が粗大化してしまい、かえって強度が低下する「過時効」という現象が起こることもあります。逆に、温度が低すぎたり時間が短すぎたりすると、時効硬化が不十分で、狙い通りの強度が得られません。 私たち押出メーカーは、長年の経験と熱処理に関する深い知見に基づき、各製品に最適な熱処理条件を設定し、厳密な温度管理と工程管理を行うことで、アルミ合金の持つ潜在的な強度能力を最大限に引き出し、お客様に信頼性の高い製品をお届けしています。

安定した強度品質は、目に見えない製造プロセスの積み重ねの賜物
設計者の皆様が手にするアルミ押出材の「強度」という特性は、単にJIS規格に記載された数値だけでなく、その背後にあるビレットの品質管理、押出条件の最適化、そして精密な熱処理といった、私たち押出メーカーの地道な技術と経験の積み重ねによって支えられています。私たちは、その一つ一つの工程に妥協することなく取り組むことで、お客様の期待を超える品質を目指しています。

まとめ:確かな強度知識と製造現場の視点で、アルミ製品の価値を共に高める

今回は、アルミ押出材の「強度」というテーマについて、JIS規格に定められた基本的な指標の読み解き方から、代表的な6000系合金の強度特性、そして私たち押出メーカーの製造現場だからこそお伝えできる「断面形状」や「ビレット品質・押出条件」が強度にどう影響するか、といった点まで掘り下げてきました。

ここまでお読みいただいた皆様は、アルミの強度が単なる一つの数値ではなく、材料の選定、熱処理、そして押出時の形状や製造プロセスといった多くの要素が複雑に絡み合って決まる、奥深い特性であることをご理解いただけたのではないでしょうか。

そして何より大切なのは、これらの知識を実際の設計に活かし、より安全で、より信頼性が高く、そして時にはより軽量でコスト効率にも優れた製品を生み出すことです。そのためには、設計者の皆様が持つ材料への深い理解と、私たち製造現場が持つ「どうすればその強度を安定して形にできるか」という知恵と技術、この両輪がしっかりと噛み合うことが不可欠です。

アルミ押出材の持つ「強度の可能性」は、まだまだ広がっています。この記事で得られた知識や視点が、皆様のこれからの製品開発において、新たな発想や、より確かな一歩を踏み出すための一助となれば、私たちにとってこれ以上の喜びはありません。

確かな知識は、確かな製品づくりへと繋がります。アルミの強度を深く理解し、そのポテンシャルを最大限に引き出すことで、共に日本のものづくりの未来を、より強く、より豊かなものにしていきましょう。

加藤軽金属工業株式会社について

加藤軽金属工業株式会社は、アルミニウムの押出し、形材製造から加工、配送、組立まで一貫したサービスを提供しています。

私たちの生活に不可欠なアルミ形材を通じて、お客様の多様なニーズに応えることを使命としています。

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加藤軽金属工業株式会社は、アルミニウムの押出し、形材製造から加工、配送、組立まで一貫したサービスを提供しています。 私たちの生活に不可欠なアルミ形材を通じて、お客様の多様なニーズに応えることを使命としています。 お客様への約束 加藤軽金属工業株式会社では、お客様への約束として最高の品質とサービスを提供します。 以下の点において、お客様の期待を超える努力を続けています。

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