送電線を見上げてみる。
街を歩いていると、頭上に送電線が走っている。
あの銀色に光る電線、何でできているか知っていますか?
ほとんどがアルミニウムです。
「電気を通すなら銅でしょ?」と思うかもしれません。
確かに、銅の方が電気をよく通す。
でも、日本中に張り巡らされた送電線の大部分は、アルミニウム製。
なぜか。
その答えを理解するには、「電気伝導率」という特性を知る必要があります。
電気伝導率とは何か
電気伝導率とは、物質がどれだけ電気を通しやすいかを示す数値です。
単位は「S/m(ジーメンス毎メートル)」。 数字が大きいほど、電気をよく通す。
ただし、金属の電気伝導率を比較するとき、よく使われるのはIACSという指標です。
IACSとは
IACS = International Annealed Copper Standard(国際焼鈍銅標準)
1913年に制定された国際規格で、焼鈍した純銅の電気伝導率を100%として、他の金属を比較します。
| 金属 | 電気伝導率(%IACS) |
|---|---|
| 銀 | 105〜108 |
| 銅 | 100(基準) |
| 金 | 70〜78 |
| アルミニウム(純アルミ) | 61〜65 |
| 真鍮 | 25〜30 |
| 鉄 | 17 |
| ステンレス | 2〜3 |
アルミニウムは、銅の約60%の電気伝導率。
銀、銅、金に次ぐ4番目。 実用金属としては、銅に次ぐ2番目の電気伝導率を持っています。
なぜ金属は電気を通すのか
ここで、少し金属学的な話をします。
自由電子の存在
金属の中には、自由電子と呼ばれる電子が存在します。
通常、電子は原子核の周りを回っている。 しかし、金属では、最外殻の電子が原子から離れて、金属全体を自由に動き回れる状態になっている。
この自由電子が、電気を運ぶ「運び屋」です。
電圧をかけると、自由電子が一方向に流れる。 これが「電流」の正体です。
自由電子が多い=電気を通しやすい
自由電子が多く、動きやすい金属ほど、電気をよく通す。
銀、銅、金、アルミニウム——これらは自由電子が多く、動きやすい金属です。
逆に、ステンレスや鉄は、自由電子の動きが制限されやすい構造を持っているため、電気伝導率が低い。
熱伝導率との関係
実は、電気伝導率が高い金属は、熱伝導率も高いという傾向があります。
| 金属 | 電気伝導率(%IACS) | 熱伝導率(W/m・K) |
|---|---|---|
| 銀 | 105 | 429 |
| 銅 | 100 | 398 |
| アルミニウム | 61 | 237 |
| 鉄 | 17 | 80 |
これは偶然ではありません。
熱も電気も、金属の中では自由電子によって運ばれるからです。
自由電子が動きやすい金属は、熱も電気もよく伝える。
この関係を「ヴィーデマン・フランツの法則」と呼びます。
19世紀にドイツの物理学者が発見した法則で、金属の熱伝導率と電気伝導率の比が、温度に比例するというものです。
銅より「軽い」という武器
電気伝導率だけを見れば、銅の方が優れている。
では、なぜアルミニウムが送電線に使われるのか。
密度の違い
| 金属 | 密度(g/cm³) |
|---|---|
| アルミニウム | 2.7 |
| 銅 | 8.9 |
アルミニウムは、銅の約1/3の重さ。
同じ体積なら、アルミニウムの方が圧倒的に軽い。
同じ重さで比較すると
ここで、面白い計算をしてみましょう。
アルミニウムの電気伝導率は、銅の約61%。 でも、密度は銅の約30%(1/3)。
同じ重さの金属を使って、電気をどれだけ流せるか?
- 銅1kgの体積:約0.11リットル
- アルミ1kgの体積:約0.37リットル(銅の約3.3倍)
断面積が3.3倍になれば、電気抵抗は1/3.3になる。
アルミの電気伝導率は銅の61%だが、断面積が3.3倍なら: 0.61 × 3.3 = 約2.0
同じ重さなら、アルミニウムは銅の約2倍の電流を流せる。
🔌 コラム:送電線がアルミニウムである理由
日本の送電線は、ほとんどがアルミニウム製です。
なぜか。
軽いから。
送電線は、鉄塔と鉄塔の間に張られる。 電線が重いと、鉄塔にかかる張力が大きくなる。 鉄塔を頑丈にしなければならない。 基礎も大きくしなければならない。
コストが膨れ上がる。
アルミニウムなら、銅の1/3の重さ。 しかも、同じ重さなら銅より多くの電流を流せる。
長距離の送電線では、この「軽さ」が決定的な優位性になる。
ただし、純粋なアルミニウムでは強度が足りない。 だから、中心に鋼線を通した「ACSR(鋼心アルミより線)」という構造が使われている。
鋼線が強度を担い、アルミニウムが電気を流す。
役割分担の設計です。
アルミニウム合金と電気伝導率
純アルミニウム(1000系)の電気伝導率は、約61〜65%IACS。
しかし、強度を上げるために他の元素を加えると、電気伝導率は下がります。
| 合金 | 電気伝導率(%IACS) | 特徴 |
|---|---|---|
| A1070(純アルミ) | 62 | 電気伝導率が高い、柔らかい |
| A1050(純アルミ) | 59 | 電気伝導率が高い、柔らかい |
| A6063-T5 | 53 | 押出加工性に優れる、建材に多用 |
| A6061-T6 | 40〜43 | 強度が高い、構造材向け |
| A5052 | 35 | 耐食性に優れる |
| A2024-T3 | 30 | 航空機向け高強度材 |
合金元素が増えると、自由電子の動きが妨げられる。 だから、電気伝導率が下がる。
電気伝導率を重視するなら、純アルミ(1000系)を選ぶ。
強度を重視するなら、合金を選び、電気伝導率の低下を受け入れる。
トレードオフの関係です。
電気用途でアルミを使う際の注意点
アルミニウムは優れた電気伝導体ですが、注意すべき点もあります。
1. 酸化皮膜の影響
アルミニウムは空気に触れると、表面に酸化皮膜(アルマイト)を形成します。
この皮膜は耐食性を高めるメリットがありますが、電気的には絶縁体です。
接触部分に酸化皮膜があると、接触抵抗が増加する。 発熱の原因になることもある。
対策
- 接触面の酸化皮膜を除去してから接続
- 導電性グリースの使用
- 適切な締め付けトルクの管理
2. 銅との接続——電蝕のリスク
アルミニウムと銅を直接接触させると、ガルバニック腐食(電蝕)が発生します。
電気化学的に、アルミニウムは銅より「卑」な金属。
水分が存在すると、アルミニウムが優先的に腐食する。
対策
- バイメタルコネクタ(異種金属接続用の専用部品)を使用
- 接触面を絶縁コーティング
- 水分の侵入を防ぐシーリング
3. クリープ(応力緩和)
アルミニウムは、銅よりも「クリープ」を起こしやすい。
クリープとは、一定の荷重をかけ続けると、徐々に変形が進む現象。
ボルトで締め付けた接続部が、長期間のうちに緩んでくることがある。 緩むと接触抵抗が増え、発熱につながる。
対策
- スプリングワッシャーの使用
- 定期的な増し締め
- アルミ用の専用端子を使用
⚠️ コラム:1970年代アメリカの教訓
1960〜70年代のアメリカで、住宅の電気配線にアルミニウムが大量に使われました。
銅の価格高騰を受けて、安価なアルミニウムが代替材として採用されたのです。
しかし、問題が起きました。
火災の増加。
原因は、接続部の不良でした。
- 酸化皮膜による接触抵抗の増加
- クリープによる接続の緩み
- 銅製の端子との異種金属接触
これらが重なり、接続部が過熱して火災につながったのです。
この問題を受けて、アメリカでは住宅配線へのアルミ使用が規制されました。
しかし、これはアルミニウムが悪いのではありません。
銅用に設計された端子や施工方法を、そのままアルミに適用したことが問題だったのです。
アルミニウムの特性を理解し、適切な設計と施工を行えば、安全に使用できます。
現在では、アルミ専用のコネクタや施工基準が整備され、 送電線や産業用途では広く安全に使われています。
素材の特性を理解することの重要性を教えてくれる事例です。
バスバー——大電流を流す形材
電気用途でアルミ形材が活躍する代表例が、バスバーです。
バスバーとは、工場やビル、発電所などで大電流を送るための導体。
平たい板状や、角棒状の形をしています。
なぜバスバーにアルミが使われるのか
- 軽さ:銅の1/3の重さで、設置・運搬が容易
- コスト:銅より安価(市況によるが、一般的に銅の1/3程度)
- 十分な電気伝導率:断面積を大きくすれば、必要な電流を流せる
同じ電流を流すために必要な断面積は、銅の約1.6倍。 でも、重さは銅の約半分で済む。
大規模な設備では、この「軽さ」と「コスト」の差が効いてきます。
押出形材の強み
バスバーは、押出成形で作られることが多い。
- 長尺の一体成形が可能
- 断面形状の自由度が高い
- 寸法精度が安定
放熱用のフィンを一体化したバスバーや、 取り付け用のボルト穴を考慮した形状など、 機能を形状に盛り込んだ設計も可能です。
まとめ
- 電気伝導率:物質が電気を通しやすさを示す数値
- アルミニウムは銅の約61%:銀、銅、金に次ぐ4番目
- 自由電子が電気を運ぶ:熱伝導率との関係(ヴィーデマン・フランツの法則)
- 軽さが武器:同じ重さなら銅の約2倍の電流を流せる
- 合金は電気伝導率が下がる:純アルミ(1000系)が最も高い
- 注意点:酸化皮膜、銅との電蝕、クリープ
特性を理解し、適切に使う
アルミニウムの電気伝導率は、銅より低い。
これは事実です。
しかし、「軽さ」という特性を組み合わせると、銅にはない優位性が生まれる。
送電線、バスバー、電気自動車のバッテリー配線—— 軽量化が求められる用途で、アルミニウムは選ばれています。
一方で、酸化皮膜や電蝕、クリープなど、注意すべき点もある。
特性を理解し、適切な設計と施工を行う。
それが、アルミニウムの電気伝導率を活かす鍵です。
関連する特性
参考文献・データ出典
- 一般社団法人 日本アルミニウム協会「アルミニウム材料の諸特性データベース:物理的性質」https://www.aluminum.or.jp/materialdb/3.html
- 理科年表オフィシャルサイト(国立天文台編)https://official.rikanenpyo.jp/
